資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊して別の道をつくることは十分可能 ④
富裕層やいわゆるエリートたちについて、よく聞かれる(偽りの)神話はたくさんありますが、よくあるものについて、Grace Blakeley(グレース・ブレークリー)さんは、分かりやすく説明しています。
もとになる対談は、ここから。
グレースさんの記事と、それを元にした考察を記載しています。
(偽りの神話 ③/5)
富裕層が、富を築いたのは、リスクを取ったから(=彼らが得ている富は、彼ら自身の力で、リスクをとって築いた正当なもの)
(答え)
いいえ、富裕層は、一番リスクを取らないひとびとです。
毎日リスクをとっているのは、私たち、マジョリティーの労働者です。
マジョリティーの労働者にとって、特にギグワークなどが増えた現在、仕事を失えば健康保険も失い、家賃や家のローンを払えなくなり、路上で暮らさざるをえない状況は、容易に起こります。
富裕層が行っているビジネスは、最初に市場を独占し、競争する必要がない状態をつくりだすので、リスクを取る必要はありません。
例えば、フェイスブックをもっているメタは、インスタグラムやWhat's appなどの競合相手がまだ小さいうちに、次々に買い上げ、競争が起こらない、独占状態(モノポリー)をつくっています。
資本主義を崇拝するひとびとは、資本主義では、「競争があり、価格は需要と供給のバランスで決まる」といいますが、実際には、大企業のモノポリー状態がいたるところにあり、競争は成り立っておらず、地球上の普通の市民たち(実際に、私たちが生きるために必要なものを作ったり、サーヴィスを行っているひとびと)を犠牲にして、企業が暴利をむさぼる状態が続いています。
ここでは、政府が介入し、大企業と結託して、市民たちを犠牲にして、大企業が暴利をむさぼることを完全に助けています。
政治家たちは、それと引き換えに、政治活動の献金をもらったり、豪華なホリデーへの招待や、政府をやめた後に、それらの大企業の相談役として多額の給料で雇われる職の確保などを行っています。
また、ある業界が、安全性の基準を満たすのはコストがかかるため、安全性を下げる法律やルールをつくるよう政治家に働きかけて、法律を変えさせ、大多数の普通のひとびとの安全が脅かされることも多く起きています。
ここには、食料や飲料に使われる化学薬品だったり、除草剤に使われる薬品、薬に使われる成分など、私たちの日常でよく使われるものも含まれます。
これは、もちろん間違っていますが、あまりにも大っぴらに行われていて、関心を失うのも分かるのですが、政治家たちは市民の声を代表して、市民に仕えるべき役目であることについて、彼らの責任を問うことはとても重要です。
彼らの給料は、私たち普通のひとびとの税金から支払われています。
本来なら、ジャーナリストたちは、これらの普通の市民たちに影響を及ぼす不正を調査し、権力者に対して責任を問うべき(それが彼らの本来の仕事)ですが、実際に起こっているのは、ジャーナリストたちもエリートとして、政府や大企業と結託して、これらの事実を知っていても報道しないことです。
政府や大企業にとって都合の悪いことを報道するようなジャーナリストは、早い段階で、摘み取られたり(メディア業界から解雇される)、彼らの存在が大きくなれば、テロリスト法など(イギリスでも、近年、反テロリスト法が拡大解釈されるようになり、正当な疑いや証拠、罪状がなくても一方的に警察が逮捕できるようになり、ガザ虐殺への反対を明確に表明し、虐殺に加担している政府を証拠をもって批判するジャーナリストが逮捕・抑留されたりしています。また、ガザ虐殺に反対を表明する団体がテロリスト認定され、普通の市民たちが、ガザ虐殺とこの団体を支持することをかいたプラカードをもって静かに道端に立っているだけで逮捕されることが起きていて、既に100人以上が逮捕され、最高で10年以上の禁固刑となる可能性があります。これが、民主主義であるわけがありません。)
ジャーナリストに関していうと、イギリスではジャーナリストはエリートだと考えられていて、イギリスの9割近くが公立学校であるにも関わらず、ジャーナリスト(特に編集部門ーその新聞やメディアの方向を決めるひとびと)は、多くが特定の私立校(多くは寄宿学校などで、親や祖父母なども同じ学校に通ったケースも多く、年間授業料も高く、大学卒業の平均初任給の一年分の2倍以上のことも多い)出身であることが、圧倒的に多く、既に小学校や中学校の段階で、政府や主流メディアの考えに疑問をもたないように無意識に考えや意見を狭めるように教育されているという意見もあります。
ただ、そうであれば、ジャーナリストとしての素質に問題があるといえるでしょう。
収入をえることが目的であれば、ジャーナリスト以外の職もたくさんあります。
現在は、イギリスでもアメリカでも、こういった独立マインドをもっているジャーナリストたちは、独立系メディアを立ち上げています。
メディアは、とても重要です。
なぜなら、ひとびとが、何が起こっているか事実を知るためには、よいエシックスをもった有能なジャーナリストたちが必要で、それを拡散するメディアが必要です。
でも、メディアが現在のように少数の富裕者にコントロールされている状態では、知るべき情報は隠され(報道されない)、意図的に曲げた情報(ミスリーディング)、嘘の情報(ディスインフォメーション)があふれ、これらに疲れた市民たちは、何が起こっているかについて完全に関心を失い、ますます、搾取されやすい存在となります。
誰が生産手段をもっているのか(=コントロールがある)に注目することは、とても大切です。
世界中のひとびとが生きるためにどうしても必要な食物についても、既にモノポリーは起きています。
食物を育てるには、ほとんどの場合、「種」が必要ですが、世界で売買されている種の約8割弱が、5つの多国籍企業によって所有されています。
ここでは、パテント(特許)が、武器化されています。
たとえば、イラクでは、アメリカとイギリスによる違法侵略が起こる前は、中東地域でも教育レベルも高く生活レベルもよい国でしたが、侵略戦争では、早い段階でSeed Bank(シード・バンク/種の銀行ーさまざまな作物の種を保管しているところ)が完全に爆破されました。
イラクはアメリカとイギリスの違法侵略後、アメリカ占領下におかれ、アメリカ占領下での暫定的なイラク政府のもとでは、1970年のイラクのパテント法(特許法)を変更し、アメリカなどの国際的大企業がイラクの種の 特許を取得することを可能にすると同時に、イラク農民がいままで使っていた種を使って栽培することを禁止、それまでのように、もっている種をほかの農民たちと分けあうことも禁止しました。
イラク農民たちが古来から使ってきた種は、国際的大企業から買うしかなくなります。
今までは、自分たちが育てた作物から得た種を翌年に植えたり、周りのひとびとと分け合っていて、無料だった種は、多額のお金を国際企業に払って手に入れるしかなくなります。
2013年には、この特許法はキャンセルされたものの、代わりに、特許がない種を植えることを禁止する法律が設定され、結局はアメリカなどの国際企業から多額のお金を払って種を買うしかない状況が現在も続きます。
多くの農民たちは、種を買うために借金をし、気候変動の影響を強く受ける地域のため、作物がうまく育たない年もあり、借金はどんどん増えていき、働いても働いても借金が増えることを嘆いているそうです。
普通に考えれば、これらの大企業は、新たな種を作り出したわけでもなく、既に存在する種を勝手に奪い取って私物化して特許を登録し、それまでは無料だった種を、貧しい農民たちに、高価に売りつけるシステムを作り変えました。
この仕組では、多くの人々を犠牲にして、少数の大企業が、儲けを永遠に出し続けることを可能にします。
これは、アメリカの支配下だから可能だったことであり、アメリカ政府が、西側企業に都合のよいモノポリーを作り出す役目を果たしています。
普通の市民たちにとって、この西側大企業によるモノポリー(特許の武器化)のせいで、食物の値段もあがり、本来なら地元で育てられている作物も手に入らなくなり、飢饉に陥る可能性も高くなります。
また、それまで自給自足で、飢餓に陥らず暮らせていたひとびとも、容易に飢餓や貧困に陥ることになります。
このモノポリー・特許の武器化は、さまざまな分野で起こっています。
薬の特許期間は、製薬企業のロビーイングなどにより、長期化する傾向にありますが、特許期間は競争がないため(ほかの企業は同じ薬をつくれない)、暴利をあげる価格をつけても、ひとびとは買うしかありません。
これは、ひとびとの命にも関わることです。
薬の開発のもとになる基礎調査の多くは、政府の補助金や、世界のどこかで行われた調査がもとになっていて、特定の薬を「開発」した企業が100パーセントその薬の開発を行ったということはありえません。
また、マイクロソフトの創始者である、ビル・ゲイツさんは、社会貢献活動家としても有名ですが、マイクロソフトの製品は、製品自体は全くよくないものの、早いうちにモノポリー化し、ほとんどのPCにWindowsがのっている状態になると、競争はなく、マイクロソフト製品の特許だけで、多額の利益を生み出します。
PC自体はまだまだ使える状態なのに、Windowsの絶え間ないアップデート(多くは問題がある箇所の修正)により、すぐにPC自体の買い替えが必要となり、ここでも儲けが出ることとなります。
ビル・ゲイツさんは、アフリカなどの資源が豊富な地域で社会貢献活動を多く行っていますが、西側社会では行えないような、安全性が確保できない技術の実験をしていることでも批判を受けています。
新たな技術が機能することが分かれば、それに特許をつけ、またしても、ビルさん自身が儲けを絶え間なくだすことになります。
でも、これらの国々の自然やひとびとに、この実験で大被害が出てもなんの責任も取らないし、特許をとったとしても、その特許の儲けがいくのはビルさんで、現地のひとびとではありません。
これも、資本主義の仕組である、周縁からの搾取です。
これに気づき、ビルさんの、いわゆる社会事業を追い出した国々もあります。
インドの学者、ヴァンダナ・シヴァさんは、西側企業のたくらみや戦略に早いうちに気づき、彼らが、インドの土地固有の種を特許化する前に、ほとんどの種を、ヴァンダナさんが登録することに成功しました。
西側大企業の種会社が、特許をとろうとすると、既にヴァンダナさんや協力者によって登録されていて、特許をとることはできず、種は今まで通り、自由に無料、あるいは安い価格でやりとりされています。
中東メディアのAl Jazeera(アル・ジャジーラ)では、ヴァンダナさんが種だけでなく、農業・民主主義についても語っているのをみることができるよくできたドキュメンタリーがあり、とてもおすすめです。
ここから、無料でみることができます。(英語)
先述したことともつながりますが、Limited Company(リミティッド・カンパニー/有限会社)の仕組も、富裕層・実業家が、リスクを取らなくてよい仕組です。
普通の労働者だと、仕事を失うと、家や持ち物すべてを失う可能性がありますが、有限会社は、責任が限られているため、事業を失敗させても、自分の家や財産にはまったく影響がありません。
事業が失敗した数分後には、新たな事業を複数、はじめることも可能です。
また、富裕層・実業家は、政府とも結託しているので、政府のプロジェクト(ある程度長期でリスクもとても少ない)に優先的に自分の企業をいれることもできるし、いったん政府のプロジェクトをはじめれば、競合企業が入ってくるのが難しいようなシステムを組み込み、競合企業が入れたとしても、既存のシステムを取り除くか、既存のシステムの上につくるとなるととても困難で時間もお金もかかることとなり、入札で勝てなくなります。
そうなれば、とても品質の悪いシステムを入れ、いろいろな問題を起こし続けたとしても、ほかの企業にのりかえられる可能性は低くなり、最小限の労働力で、大きな利益を上げ続けることができます。
でも、このプロジェクトは市民の税金によって支払われていて、被害を被るのは、普通の市民たちです。
前回の記事でも、記載しましたが、富裕層と政府はつながっているので、ファイナンス業界が大きな間違いをおこし、本来なら倒産、トップのリーダーたちは裁判で有罪となっているはずが、政府により国民の税金が注ぎ込まれ、誰一人、裁判にさえ訴えられず、全く責任を取ることもなく、別のファイナンス機関のトップとしてさらによい給料で雇われたり、政府にアドヴァイザーとして加わり、高給を与えられることも、よく起こっています。
彼らの無謀な(ときには完全に法律違反の)ファイナンス製品や慣習などで、被害をうけ、家や貯金を失うのは、何も悪いことをしていない、ふつうの市民たちです。
これらは、本当に一部の例ですが、富裕層がリスクを取らないでいい仕組をつくり、保持していること、それには政府が結託していることは、明確になったと思います。
これは、資本主義が強欲なひとたちによって曲げられたからではなく、利益をどこまでも蓄積しないとつぶれてしまう資本主義の仕組として正常に機能しているだけです。
私たちには、特に若いひとびとは、資本主義の偽りの神話にだまされず、資本主義を離れて、世界のマジョリティーのひとびとにとって善い仕組をつくっていくことを考える必要があり、それは、十分可能です。