資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊して別の道をつくることは十分可能 ⑤
富裕層やいわゆるエリートたちについて、よく聞かれる(偽りの)神話はたくさんありますが、よくあるものについて、Grace Blakeley(グレース・ブレークリー)さんは、分かりやすく説明しています。
もとになる対談は、ここから。
グレースさんの対談と、それを元にした考察を記載しています。
(偽りの神話 ④/5)
資本主義のもとでは、innovation (イノヴェーション/発明)が起きる
(答え)
YesとNoですが、問題は、その発明が何に使われるか、ということです。
資本主義では、利益を蓄積すること、それだけが目的なので、発明は、地球上に住む大多数のひとのためではなく、非人間的なこと・ヒューマニティーに反することに使われがちです。
何に投資が行われるか、というのも、資本家(何を生産するかのコントロールをもつ)の一存であり、かつ、彼ら/彼女らも、利益を蓄積することが目的なので、それが世界の大多数のひとびと、自然、地球にどう影響を及ぼすかは、全く考慮にはいりません。
これは、資本主義がいかに民主主義と相いれないかを、よく示しています。
たとえば、ビリオネアを越えてトリリオネアとなったイーロン・マスクさんは、火星を植民地化する計画に大金を投じています。
これは、現在の資本主義では、地球を破壊し続けていて、利益を蓄積し続けることが難しくなるのは(私たちが何も変えなければー資本家は変えるつもりは全くない)明らかなので、この地球を捨てて、別の地域を搾取して自分だけに利益を蓄積し続ける仕組をつくることを意味しています。
火星は、早くたどりつき、力で奪い取ったひとびとの勝ち、という西ヨーロッパの白人・キリスト教徒が、世界中に侵略して原住民たちを大量殺害し、資源を盗み取り、勝手に国境をひいて独占化を行った、帝国主義(植民地主義は、帝国主義から派生したもの)と同じ発想です。
火星の資源を搾取しつくして、その地域が地球のように利益を蓄積し続けることが不可能になれば、別の惑星・場所にうつるだけです。
実際、資本主義のはじまりは、ポルトガルのマデイラ島(アフリカ大陸に近い島)で、当時、貿易(輸出)で大きな利益をだしていた砂糖の生産のために、必要な燃料として、その島の木を刈り取って使っていたところ、木が育つペースを完全に越した速さで切り取っていたため、どんどん遠くまで行かないと木の伐採が行えず、行きかえりの時間と手間、労働力を考えると、利益を出すためには意味を成さなくなり、かつ島の木を刈りつくしたことで、ほかの場所、アフリカ大陸やアメリカ大陸へと搾取する場所を求めて、商人・王家・領主などの当時の権力者たちがお金を出して、世界中への探索・侵略へと乗り出すこととなります。
マデイラ島は、現在も、ほぼ木がない、はげた島のまま残されているそうです。
マデイラ島のように、その地域が植物・動物・人間にも住みにくい場所となり、自然が回復することが不可能な状態になるまで搾取するのは、資本主義の仕組です。
資本主義には、ただで無限に搾取できる自然が必須条件なので、ある地域の自然を破壊しつくせば、ほかの地域の資源を求めて移動し、同じことを繰り返します。
ここには、同じ人類に対する共感、責任性は全くみられません。
また、現在、軍事複合産業が大きくなり続けているのは、戦争・紛争は、大きな利益をうみだすからです。
ガザの虐殺が、誰の目にも明らかなのに、現在も止まらないのは、イスラエルが虐殺をとめる気がないからだけでなく、西側諸国・西側大企業が儲けのために、加担し続けているからです。
日本も軍事費を増大するようですが、ヨーロッパの国々も、福祉や健康・教育などの国民たちの生活・最低限生きるために必要なことを大幅に削り、軍事費を増大する計画を発表しています。
The UK(イギリス・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの連合4か国)のすべての国で、貧困、特に子供たちの貧困が大幅に増え続けているにも関わらず、市民たちの声を無視して、政治家たちは軍事化へと走っています。
多くの政治家たちは、軍事複合産業とのつながりが強いことでも知られています。
スコットランドでは、たちゆかなくなった業種の工場を武器工場にする計画も出ています。
スコットランド(ほかの二国、ウェールズ・北アイルランドも含めて)は、独立した国であるにも関わらず、政策や予算はほぼイギリスの都合で決められ、武器工場に反対する地元の人々の声は、政治に反映されにくい状況となっています。
今でも、スコットランド独立を求めるひとびとが多いのは、スコットランドの自治権がイギリスに比べてとても小さいことからもきています。
軍事複合産業に戻ると、ひとびとを殺す軍事機器(偵察機器・航空機・ドローン・ターゲットを自動選択するAIなども含む)の発明が進んでいることが、いいことだと思う人は少ないと思います。
これらで殺されるのは、私たち市民のような普通のひとびとで、政治家や大企業の経営者・大株主、大富豪などは、一番最後まで殺されないので、儲けさえでれば、市民が殺されることにはほぼ関心がないでしょう。
軍事複合産業には、分かりやすい軍事機器をつくっている企業だけでなく、ドローンの部品として欠かせない精密機器をつくる企業、戦略をアドヴァイスするシンクタンク・コンサルティング企業、大量のデータを扱うデータ産業(データ・センターなども含むー水や電気の使用が非常に大きく環境破壊の面でも問題)、AI、軍人の居住施設(建設企業・賃貸を行う企業が儲かるー地元のひとは家賃が高くなり、自分のコミュニティーに住めなくなることもある)・移動手段(航空業界ももうかる)や、戦争中の囚人・拷問施設の設置・運営(私営軍事企業やセキュリティー企業が儲かる)、保険企業(軍人の保険、居住地の保険、戦争犯罪などを問われた時のための裁判費用の保険等)、食料品の輸出(爆撃などでひとびとがまともに農業ができない状態にして、食料品を西側企業から輸入する以外にない状態とするーチャリティー産業は一部は救援物資として無料だったとしても、結果的に西側企業に大きく利益がでる仕組みとなっている)など、西側企業のさまざまな業界に利益が大きく出る仕組みになっています。
また、軍事費を増やし続けると、戦争なしでは、倉庫に武器がたまる一方となり、軍事費増大の正当性が薄れるので、起こさなくていい戦争を起こす可能性も高まります。
アメリカは、圧倒的な軍事大国ですが、侵略や軍事クーデターを、数百年の間、始終行っています。
アメリカは、あちこち(資源のある国々で、アメリカのいいなりにならない国々)で侵略や軍事クーデーターを起こし、難民をつくりだしていますが、難民をブロックするためのテクノロジー、国境の壁の建設、難民を収容する大収容所の建設・管理、難民とみえる人たちを暴力的に逮捕する仕組をつくり大量に人を雇う、などで、新たな儲けの仕組をつくっています。
アメリカは囚人の数が異様に多いことでも知られていますが、子どもの収容所を経営している企業が、多くの子どもを有罪にするよう裁判官にプレッシャーをかけることも起きているそうです。
少し考えると気づくと思いますが、これらの新たな技術の発明や、新たな仕組で文化の発展があったわけでも、人類に役立つものができたわけでもありません。
たまたま第三諸国に生まれた人たちや、たまたま不幸な環境にいた人たちを搾取して、(西側諸国や企業がつくりだした人為的な)苦難から儲けを出しているだけです。
また、戦争は、気候危機にもとても大きな悪影響を及ぼしています。
戦闘機を数時間飛ばすだけで、大量の燃料を必要とするし、爆弾を落とせば、深刻な火事を起こすし、建物の倒壊では、アスベストスなどの有害な物質が空気中にとどまる可能性があります。
アメリカのブラウン大学が長年行っているプロジェクト「Costs of War(戦争の価格)」は、戦争が私たち市民に及ぼしている影響もみることができます。
太陽光や風力などの自然エネルギーの料金が安くなると、自然エネルギーへの投資が増え、自然と化石燃料への投資や発掘・使用などは減るとみられていましたが、自然エネルギーの料金は、化石燃料よりも安くなったにも関わらず、いまだに化石燃料への投資や使用は続いています。
なぜなら、資本家にとって、化石燃料は、自然エネルギーよりも、3倍近い利益を生み出すからです。
(参照: Jason Hickelさんの記事)
資本家にとって、長期的に気候危機が起きることなどは、どうでもいいことです。
西側世界で、ある程度経済が発展した裕福な地域で、民主主義とよばれている国に住んでいる場合、数年に一度の投票権があることで民主主義が行われていると思うかもしれませんが、経済的な民主主義は、資本主義の仕組のなかでは成り立ちません。
多くのものが効率的に生産されているにも関わらず、経済的に豊かな国でも極端な貧困は増え続け、必要な医療が受けられないひと、働いているにも関わらず最低限健康に暮らすために必要な住居や食料を得られない人々が、たくさんいます。
その一方、ビリオネアたちはどんどん富を蓄積し続け、個人用ジェット・個人用クルーザー・数十部屋あるようなリアル・エステートを世界中に多く所有など、世の中の大多数のひとびとの尊厳をもって暮らすことに必要なものが生産されるのではなく、世界の数パーセントの人だけが使う、人類全体にとっては不要、有害なものを生産することに、資本と労働力が使われています。
グローバル・サウスでは、資源が豊富な地域であるにも関わらず貧しい地域ですが、主に輸出用のファスト・ファッションや輸出用の食料などがつくられ、現地のひとたちは劣悪な環境で格安の労働力としてつかわれ、彼ら・彼女らの優秀な労働力は、自国や自分たちのために使われず、西側諸国の企業の利益を蓄積のために使われています。
グローバル・サウスで、自国の豊かな資源を、自国民の発展(無料で全員に教育、無料の医療、健康に必要な食料に補助金を出し誰もが健康に生きられるようにする、無料か格安の質の良い住居など)と自国の経済の発展(資源の国有化など)をはかった政権は、ほぼすべて、アメリカやイギリスなどの帝国主義国によって取り除かれました。
なぜなら、資源の豊かな国々が、主権をもち、自国の発展のために資源や労力をつかいはじめると、グローバル・ノースにとっては、搾取する資源や労働力が限られ、資本主義がたちゆかなくなるからです。
資本主義と、経済的な民主主義は両立できないことは、明らかです。
経済的な民主主義が実行されると、地球上の大多数のひとびとが、尊厳をもって生きるために必要なもの・ことを生産し、そのために労働力を配置することができ、貧困は完全になくせるとみられています。
そもそも、貧困は不自然なことであり、人為的につくられたものです。
また、資本主義では、「自然」が、ただで永久に使い続けられるもの(資本主義のなかで、交換価値のあるものとして交換される循環のなかには存在しない)とみなされているように、労働者を生み出し育てる役目の女性たち(男性は身体的に子どもを産めないため、結果的に子どもを育てることも女性の役目となりがち)も同じように、ただで永久に使い続けられるものとみなされていることも覚えておく必要があります。
子どもを生んだり、育てることは、社会でとても大切な役目を果たしているだけでなく、資本主義が機能するために労働者がいることは必須なのですが、この役目がなんの価値もないように扱われているのは、資本主義の仕組のせいでもあります。
イギリスやヨーロッパの国々は、グローバル・サウスを長年搾取し続けることで、自国では福祉国家をつくることを可能にし、グローバル・ノースの労働者たちは、その恩恵を大きく受けていた時期もありますが、現在は、アメリカ同様、ファイナンシャラィゼィションで、お金は金融業界のなかで循環されるだけで、企業の多くは、発明などを起こさせるリサーチに対する投資はとても小さく、発明を生み出す基礎となる大学でも、同様にリサーチや発明に対する予算は小さい状態で、人類にとってよい発明が生み出される環境ではありません。
アメリカ大学では、ガザの虐殺で使われている、虫が大群で一緒に飛ぶようなドローンを開発し、大量殺人を可能にする兵器の開発を、イスラエルと共同で行ったことも知られています。
アメリカのように教育の商業化が進んでいると、どんなに美辞麗句を並べたとしても、大学にお金さえ入ればいい、ということになりがちです。
アメリカが今でも発明を行っているかのような印象をもつのは、特許の悪用のせいで、実際は、アメリカの発明力は、どんどん落ちています。
反対に、中国では、多くの発明が起きていて、それがアメリカにとって脅威なため、中国をつぶそうと躍起になっているとみられています。
中国は、社会主義とはいえないものの、社会主義の要素はあり、ファーウェイは、資本家が所有している企業ではなく、働いているひとたちがみんなで所有している企業です。
ここでは、ひとびとに有用な、多くの発明が起きています。
また、AIについても、アメリカはAI技術を独占しようとして、必要な技術や部品の輸出などを禁止していましたが、中国は、アメリカよりもずっと少ない資金で、オープン・ソース(←民主的)のAIを開発し、世界中のひとびとが無料で使えるようにしました。
また、アメリカでは発明力だけでなく、労働力も落ちていて、たとえ製造業をアメリカに戻したとしても、中国や台湾のように、優れた技術者が大量にいるわけではないし、技術者を育てるには時間がかかり、かつアメリカの技術職の時給は高くつくので、結局、これらの高いテクノロジーをつかう製造業をアメリカで成功させるのは無理だとみられています。
アメリカの人々が劣っているというわけではなく、製造業はグローバル・サウスにうつり、サーヴィス業が主体となり、高い技術を必要とする製造業の技術職の訓練を受ける機会のあるひとが圧倒的に少ないからです。
ただ、アメリカでは教育も商業化しているため、国内での教育のレヴェルの差が非常に激しく、中国や日本、韓国のように全体的に教育レヴェルがとても高い国々とは、技術者としてやっていける人数も大きく違うかもしれません。
中国は、今も西側諸国に優れた技術を安い労働力で提供するグローバル・サウスに属しているものの、自国でさまざまな発明を行い、アメリカのハイテック技術の独占に対して、アメリカに依存する必要性を大きく減らしています。
多くのグローバル・サウスの国々は、(多くは違法である、西側政府による)経済制裁や、(不平等な条件の)国の借金などで、アメリカなどの西側諸国に依存せざるをえない状況であり、この依存には、これらのハイテック技術をもてないことも含まれています。
アメリカや西側諸国にとって、これらの国々を自分たちに依存させている状態を保つことは、これらの国々の豊かな資源をただ同然で奪い取り、その国の労働力を格安で使い、自然破壊や公害を起こしても、なんの責任を取る必要もないことから、儲け(利益)を最大限にするために、必須です。
「民主主義・自由・女性の解放などのために、独裁者を倒す」などと美しいことばを使って、ほかの国々を侵略するのは、資源の搾取と格安の労働力の確保で、西側への利益の蓄積を続けるためです。
その証拠に、アメリカやイギリスが介入した国々は、チリやアルゼンチンのように、アメリカ・イギリスが傀儡政権である独裁者をすえつけましたが、これらの独裁者が民主主義とはほど遠い、警察国家をつくり、多くの市民を拷問にかけたり大量殺人しても、緊密な外交を続けました。
なぜなら、これらの独裁政権は、アメリカやイギリスに、彼らの国の資源へ格安でアクセスさせたからです。
これで儲かったのは、西側政府・企業と、独裁政権下で権力をもっていたごく少数のひとびとだけで、政治腐敗をひきおこしているのは、西側政府です。
これらの国の大多数のひとびとは、とても貧しい生活を強いられました。
たとえば、ベネズエラは石油の埋蔵量が一番大きい国ではあるものの、石油として使うには精製が必要であり、その精製技術は、長年、ベネズエラのすぐ近くの、オランダの支配下である島で、オランダ石油企業のシェルやその関連企業が行っていました。
(※植民地時代は終わったと思っているひとは多いと思いますが、イギリスは今でもキプロスの一部を所有していたりして、植民地の仕組みは終わっていません。これらの植民地の多くは、アメリカと共同の軍事基地として使われています)
これらの精製技術の独占、施設の独占も、依存状態をつくりだします。
これは、帝国主義で、元植民地宗主国がよく使う手段です。
資源が豊かなグローバル・サウスが貧しく、資源をほぼもたないグローバル・ノースが裕福なのは、資本主義には帝国主義のアレンジメントが必要で、グローバル・サウスを格安で搾取できる仕組みをつくり、それを保っているからです。
発明力もほぼ失ったアメリカに残されているのは、アメリカ・ドルの独占性ですが、それも、中国政府が発行する優れたディジタル通貨や、BRICKのなかでそれぞれの通貨で取引ができる仕組みなどで、力を失いつつあります。
アメリカは、アメリカ・ドルの独占性を悪用していることも多く、アフガニスタンの中央銀行の資金(アメリカ・ドル)はアメリカに取り押さえられからっぽで、多くのひとびとが食事さえままならないひどい貧困に陥っています。
この資金をアメリカがおさえているのは、アメリカの同時多発テロで亡くなったアメリカ人への保障にあてるためだからということですが、テロを行ったアルカイダという組織はサウジアラビア出身者がリーダーだった組織で、アフガニスタンは関係ありません。
アフガニスタンのタリバンが、アルカイダのリーダーをかくまったとも言われていますが、アメリカ政府からの要請に対して、タリバンはアルカイダが犯人であるという証拠をみせてほしいと答えたところ、何も答えはなく、アメリカが国際法違反で、「アフガニスタンに自由と民主主義を与えるため」という口実で、アフガニスタンに侵略しました。
結局、20年近くにわたって、アメリカはアフガニスタンを占拠したものの、アフガニスタンの状況を悪くしただけで、20年前に民主主義の敵として倒したタリバンに政権をわたして、去りました。
資本主義では、資源の確保のために、別の地域に侵略することが必須で、別の地域には、既にそこに住んでいる人たちがいて、侵略者に喜んで土地や家、資源をわたし、自分たちは奴隷として使われることに、喜んで従うひとはいません。
そうなると、圧倒的な武力で虐殺、エスニック・クレンジングを行い、かつそのあとも、抵抗する原住民たちを抑え続けるために、残虐な暴力を使い続ける必要がでてきます。
搾取する側・搾取される側、支配する側・支配される側という二択ではなく、地球上の大多数のひとびとが同等な立場で同じ権利をもち、必要なものに簡単にアクセスでき、地球上の大多数の誰もに役立つような発明を多く起こすことも、資本主義・帝国主義を壊せば、すでに十分可能です。
【参考】
気候危機と軍事について(私の記事)
https://note.com/thegreencatalyst/n/nd5ae6ae4fc74