資本主義は、普遍的な/万人への繁栄をもたらさない ー 資本主義を壊して別の道をつくることは十分可能 ⑥ ー b
貸し手にスポットライトをあて、貸し手の責任を問うことの大切さ
グローバル・ノースがグローバル・サウスを搾取し続け、グローバル・サウスが自国経済を発展させることを不可能にさせている経済的帝国主義の仕組の中には、前回(← リンクを貼る)説明した、国際通貨基金・世界銀行の構造調整計画の強制に加えて、sovereign debts(ソヴェレィン・デッツ/国家が発行する債権、または借入金で政府が返済責任を負う)や、経済制裁も含まれます。
また、グローバル・ノースによる軍事介入も、始終行われていて、これに対抗する軍事にも予算や労力を割く必要があり、グローバル・サウスの国々にとっては、これは大きな負担となります。
現在のヴェネズエラの状況をみていると明らかだと思いますが、アメリカのトランプ大統領は、ヴェネズエラの石油・ガス(世界で最大の埋蔵量とみられている)を奪うために武力侵略することを明言しています。
アメリカの政治家たちも、侵略や戦争を嫌う大多数の国民に対して、侵略を行えば石油・ガスがアメリカのものになり、アメリカ企業は大儲けをして、アメリカ国民は安いガソリンがえられる、などと、平気で公言しています。
アメリカは、表面上は、「独裁者を倒し民主主義を世界にひろげる・女性の権利をひろめる」などと言いながら、石油や鉱物などの資源を奪うために、多くの地域に侵略し、その国の経済や社会を破壊しています。
現在のトランプ大統領と、今までの政治との違いは、トランプ大統領は、本当の理由を明言し、それまでは、きれいごと(民主主義をひろめるため、など)を正当化の理由につかっているだけで、行っていることは同じです。
オバマ大統領は、石油と鉱物を得るために、当時はその地域でも経済的にとても豊かで教育レヴェルも高く、家や教育・健康・福祉を無料で提供していたリビアに侵略し、経済・社会を完全に壊滅させ、現在は、奴隷市場ができるレヴェルにまで崩壊しています。
リビアは、この地域では珍しく、石油を国営企業として保ち、グローバル・ノース企業からの搾取を防いで、自国民の人間としての発展(健康な食物や、快適な家、健康や教育に誰もが簡単に(多くは無料で)アクセスできるのは国民の基本的人権とした)に国家予算を使っていた国ですが、これも、アメリカから狙われた理由の一つとみられています。
ヴェネズエラに対して、アメリカが地上侵攻を行えば、多くの無実のヴェネズエラ市民が殺され、経済がさらに破壊され(すでに深刻な経済制裁を受け続けていて、多くの人が死んだり、移民している)、リビアのような社会も経済も崩壊した地域になるとみられています。
そのときに、多くのヴェネズエラの人々が避難する先は、隣国のラテンアメリカの国々ですが、アメリカは、非白人の命の価値はゼロ以下だと思っているのは明らかなので、気にしないでしょう。
グローバル・ノースによって、自国の経済が発展できないような状態におかれた上に、常に軍事侵略を受けたり、軍事侵略の危機が現実である状態は、とても不正義です。
現在の、ホンデュラスの選挙でも、国家の主権を大事にし、(国家の資源を西側企業に格安で渡して賄賂を受け取るような、右派がやることはしない)左よりの政党を負けさせるために、工作をしていることをおおっぴらに認めています。
これも、今まで百年以上にわたって行ってきたことを、大っぴらに行っているだけの違いです。
英語では、借金があることを「indebted (インデッティッド)」といいますが、このことばには、お金を返す義務がある、ということだけでなく、なんらかの好意や親切にこたえる義務があるという意味で使われることもあり、モラルが問われているような感覚を無意識にもつひとびとが多いことばでもあります。
ちなみに、「親に恩がある」という考え方は、ヨーロッパには基本的に存在しないので、無理やり英語に訳すと、「I'm indebted to parents」ですが、これは、親と子どもとの関係が、なんらかのお金のトランザクション(取引)のように感じられて、違和感を感じるひとは多いのでは、と思います。
子どもは生まれることを選択できず、(犯罪や心理的な操作があった場合をのぞいては)心身共に成熟した大人たちが、子どもをもつことを決めた結果として子どもがいるので、親が「生まれてきてくれてありがとう/子どもを育てるという機会をくれてありがとう」ということはあっても、子どもに対して、「恩を感じてそれを返せ(生み育てた分を借金として背負わせ、それを利子をつけて親に返すことを要求)」ということはありえません。
Heidi Chou(ハイディ・チャウ)さんは、イギリスの経済専門家で、不正義な借金(グローバル・サウスが抱える国の借金、企業から個人への暴利な借金など)へ対抗して、Debt Justice(デット・ジャスティス/借金への正義)という団体を運営して、国々やひとびとを助けています。
資本主義だと、経済学の専門家は、一番もうけの多いファイナンス業界へと進む傾向が高いものの、ハイディさんのように、マジョリティのひとびとのために、不正な経済の仕組(そのひとつが借金)と闘うことを選択するひとびとも少数ながら存在します。
帝国主義のアレンジメントを必要とする資本主義という経済の仕組でなく、民主主義的な経済の仕組みが存在していれば、このような不正な借金は存在しようがありません。
ただ、この不正な仕組みを壊す行動を続けながら、現在不正義に苦しんでいる国々やひとびとが、最大の正義をえられるようサポートすることも大切です。
そのためには、まず、現在の仕組がどうなっているかを理解する必要があります。
現在の仕組に細かく入る前に、ハイディさんの分かりやすい主張の一つは以下です。
(個人でざっと要約しました)
グローバル・サウスの国々は、帝国主義によって、グローバル・ノース(帝国主義で、地球上の8割近くを西ヨーロッパの白人・キリスト教徒が植民地化・入植者植民地主義を行った)が、グローバル・サウス(資源が豊富な国々)から大きく搾取したことが、現在の国の借金のもととなっています。
本来なら、グローバル・ノースは、グローバル・サウスに賠償するべきでした。
(経済人類学の専門家、Jason Hickel(ジェイソン・ヒッケル)さんによれば、たとえば現イギリスが旧植民地国に賠償を行うと、賠償の金額が大きすぎてイギリスは破産しますーそれほど、搾取の価格は大きい)
分かりやすい例では、中央アメリカのハイチは、アフリカ大陸からアメリカ地域にさらわれて生涯の奴隷として暴虐に扱われていたひとびとが立ち上がり、独立して、自分たちの国を1791年につくりました。
植民地宗主国であったフランスが、当時は世界最大であった海軍をハイチに配置し、攻め入るか、奴隷のオーナーたちにとても高い賠償金を払うか、どちらかを選べと強制され、奴隷のオーナーたちに高い賠償金(奴隷を失ったことへの賠償金)を支払うことを約束させられ、この賠償金を支払い終わったのは、150年以上あとの1970年代でした。
これが不正義であることは、明らかですが、フランス政府はこの契約を反故にすることを拒否し続け、ハイチで飢餓などに苦しむ人々を見殺しにしました。
イギリスは、奴隷制度の廃止に大きく貢献した、と言いたがりますが、奴隷オーナーたちへの賠償金の支払いが終わったのは20年程前のことで、これらの賠償金の支払いから利益を得たのは、現在も、とても富裕なひとびとです。
これは、珍しい話ではなく、構造的・歴史的な問題です。
グローバル・ノースがグローバル・サウスに負うものが大きいにも関わらず、植民地宗主国から独立した後も、「グローバル・サウス=お金を借りる国、グローバル・ノース=お金を貸す国」という図式で、グローバル・ノースは、グローバル・サウスを、借金をかたに、以前の植民地国のように扱って搾取し続けています。
ハイディさんは、このグローバル・サウス借金の原因・責任は、グローバル・ノースにあるにも関わらず、グローバル・サウスのリーダーたちは、この不正な借金を払わない・キャンセルすることは、モラルに反するのではないか、と思い込んでいるようにみえるとします。
でも、国民たちが水や食料・電気・教育といった人間の発展、生きるためにどうしても必要なものにアクセスできないときに、国の借金を支払わせること自体が、モラルに反しています。
多くの場合、もともとが不正義な・不正な借金だとしても、モラルとしてスポットライトがあたるのは、借りたほうですが、私たちは、貸したほうの無責任さや不正な構造にスポットライトをあてる必要があります。
ひとびとの命がかかっているとき、尊厳をもって生きるために必要なことやものにアクセスできないとき、借金を支払わない(デフォルト/ 債務不履行))のは、モラルとして正しいことです。
アフリカ大陸では、さまざまな優れた思想家やリーダーを輩出しましたが、ブルキナ・ファソで革新的な政治を行い、国家経済、国民の教育・生活レヴェルを大きくあげたトマス・サンカラさんは、この不正な借金を支払うべきではない、としたものの、アフリカや中東地域全体で団結して債務不履行を行わないと、自分を含めたリーダーたちは、(アメリカやフランスなどの西側諸国によって)暗殺されるだろう、言っていた通り、西側政府によって暗殺されました。
トーマスさんだけでなく、アフリカ大陸・中東・アジアでは多くの優れたリーダーたちが、西側政府(グローバル・ノース)によって、暗殺されたり、クーデターで失脚させられました。
日本は、グローバル・ノースの核ではなくても、ここに所属している国となりますが、グローバル・ノースとグローバル・サウスのソヴェレィン・デッツは、どこ(どの機関やひと、公的か私的か)から借入しているかが、大きく違います。
たとえば、The UK(イギリス・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)のソヴェレィン・デッツは、国内の借金で、国内の機関が貸つけ先であり、ほとんどは、自国通貨であるブリティッシュ・パウンズです。
The UKでは、75パーセントのソヴェレィン・デッツは、国内機関や人々で、外部(国外)のソヴェレィン・デッツに支払っているのは、国家収入の約4パーセントです。
利子は、とても低く、この放送時で、約0.9パーセントでした。
日本は、ざっと見た限り、The UKよりも、さらに国内での借金の割合が高く、約90パーセントのようで、かつ、自国通貨である円です。
日本やThe UKで、ソヴェレィン・デッツ(国がインフラストラクチャーや、パンデミックのときなどに、足りない分を借りる)が多くても大丈夫、と言われることが多いのは、ほとんどが国内の借金であり、かつ自国通貨なので、自国通貨を多く発行することで対応できる、という意味です。
もちろん、自国通貨をやたらと多く発行すれば、インフレーションなどの問題が起きることも想定内ですが、自国通貨で自国内の借金なので、大きなコントロールをもっていることになります。
グローバル・サウスの状況は、上記と大きく違います。
借りている通貨は、アメリカ・ドルなどの外国通貨で、自国通貨との為替レートが変わることにより、突然ふくれあがるリスクにさらされています。
アメリカは、自国の都合(自国のもうけのため)で為替レートを人為的に変えることもあるので、そのたびに犠牲となるのは、グローバル・サウスの国々です。
ちなみに、アフリカの多くの国々はフランスの元植民地国でしたが、14か国は、いまだにCFA flanc (CFAフラン)を強制的につかわされていて、外貨準備高の50パーセントをフランス国庫に保管しないといけない(自分たちで自由に出入できない)、通貨の為替レートはフランスによって決められるなど、経済的にいまだに元植民地宗主国のフランスにコントロールされています。
リビアへの侵略は、リビアのカダフィ大統領が、アフリカ・中東地域がそれぞれの国々が主権をもって自国の発展ができることを目的に、これらの地域での共通通貨(アメリカ・ドルを経由しない)を導入することをすすめていたことが、フランス政府には許せず、アメリカとフランスが中心となって侵略を行いました。
グローバル・サウスでは、国内での借金ではなく、外国からの借金がメインとなります。
グローバル・サウスでは、ソヴェレィン・デッツを払うために、国家収入の約15パーセントから20パーセントを支払い、かつ、借りたお金の利子は、6~10パーセントとなっています。
(先述したように、The UKだと0.9パーセント)
ここからも、グローバル・サウスが、貧しい状態であるにも関わらず、利子を多く支払い、国家収入の多くをソヴェレィン・デッツの支払いにあてていて、そのせいで、自国の発展に割ける予算がとても少なくなるのは、明らかです。
グローバル・ノースでは、利子も少なく、国家収入の多くを自国の発展に使うことができます。
ハイディさんが、指摘しているように、ソヴェレィン・デッツの貸主に注目することは、とても大切です。
ソヴェレィン・デッツの貸主には、3種類あります。
① Bilateral Debt(バイレィテラル・デット/双方の借金)
政府間での貸し借りで生じた借金を指します。ここでも、権力関係が大きく影響し、グローバル・ノースとグローバル・サウスの経済の大きな国の28か国は、Paris Club(パリ・クラブ)と呼ばれる機関に所属していて、パワフルな国同士の間で交渉を行い、低い利率で貸し借りを行います。
グローバル・サウスの貧しい国々は、ここにアクセスはありません。
② Multilateral debt (マルティレィテラル・デット/多国間での借金)
国際通貨基金や、世界銀行からの借金をさします。
借金の利子は低いものの、常に、グローバル・サウスの経済・人間的な発展をさまたげる条件(例/構造調整計画)が強制的に課せられます。
構造調整計画では、スリランカのように、国民たちが日常の食べるものに困っているようなときに、自国民のための福祉や食料、教育、水などのインフラストラクチャーへ国家予算を使うことをほぼ禁じ、西側企業が、格安で公共事業やリゾート地などを買うことを助けます。
ただ、お金がどこからも借りられなければ、外貨が全くない状態で、最低限必要な薬や、農薬なども輸入できなくなるため、多くの人々が飢餓や簡単に治せる病気で死ぬことを最低限防ぐため、この構造調整計画を受け入れるしかなくなります。
構造調整計画は、シリアでも行われ、シリア市民にとっては、爆弾を落とされるよりもずっと悪い影響があったとされています。
シリアでは、干ばつなどがあったときには、政府が農民たちに補助金を支給して、なんとか生きられることを保ち、干ばつが終われば、農民たちが今まで通り農地で耕すことを可能にしていましたが、構造調整計画で、農民への補助金政策を禁止された結果、干ばつが起きたとき、多くの農民たちは死なないために、農地を捨てて都会へと賃金労働を求めて移動せざるをえなくなり、貧困・社会の不安定さを加速させました。
国際通貨基金・世界銀行は、貧困をなくすことを目標の一つに掲げていますが、実際は、西側政府・西側企業が、植民地時代のように、グローバル・サウスの豊富な資源を搾取し、現地のひとびとを格安の労働力で使うために存在していることは、多くの専門家が指摘しています。
国際的な借金の3分の1は、国際通貨飢饉・世界銀行からきています。
③ Private debt(プライヴェート・デット/私営機関や私人からの借金)
銀行や、ヘッジ・ファンド、個人の投機家などからの借金をさします。
上記の2つよりも、ずっと高い利率となります。
グローバル・サウスのソヴェレィン・デッツの約46パーセントは、プライヴェート・デットが占め、これが、大きな問題となっています。
詳細は、後述しますが、利率が高く設定されているのは、リスクが高いという名目なのですが、実際には、これらの機関は、無責任でリスクが高く、暴利をむさぼるような借金のシステムをつくりだし、それが機能しなくなると、西側政府や国際機関(世界銀行・国際通貨基金)がこれらを公金(多くは、地球上の市民が支払った税金)を使って救済し、そのツケを支払わされているのは、地球上の多くのふつうの人々です。
西側企業と西側政府は緊密につながっていて、西側企業には社会主義が適用され(どんな失敗を起こしても、なんの責任も取らず、公金で救済されるー無茶な金融商品でふつうのひとびとから吸い取った暴利は既に自分たちの間で分け合って使用済み)、普通のひとびとには資本主義が適用されている(銀行やヘッジ・ファンドなどの無茶で馬鹿な行動により、経済が破綻し、この経済の破綻にはなんの寄与もしていないふつうのひとびとが、職を失ったり、家を失ったりするーでも政府はこれらの人々を全く助けない)、というのは、上記のような状況を指しています。
貸し手にスポットライトをあてるためには、ここ80年ぐらいのdebt crisis (デット・クライシス/債務危機)の歴史をみることが、重要です。
この債務危機は、最初はprivate sector (プライヴェィト・セクター/一般企業や個人などが参加する経済で、Public sector(パブリック・セクター/公的機関ー役所など)と対になる)からはじまりました。
1970年代には、プライヴェィト・セクターのたくさんの借金が、銀行などに押し出されました。
1980年代に、特にグローバル・サウスの国々が債務危機にさらされたとき、これらの国々には借金を返すことは完全に不可能だったにも関わらず、デフォルト( 債務不履行)することを許されず、1990年代には、国際通貨基金が介入し、グローバル・サウスの借金を肩代わりし、銀行に支払いました。
資本主義というのであれば、本来なら、無責任なお金の貸しつけをした(私営である)銀行が責任を取るべきですが、国際通貨基金によって、なんの責任を取ることもなく、この後も何度も経済危機を引き起こしたにも関わらず、そのたびに、これらの国際機関や西側政府によって救済されています。
これは、借金が、銀行から、国際通貨基金へと移動したことを意味します。
ハイディさんによれば、これらの銀行やヘッジ・ファンドなどが、責任を取った例はとても稀で、常に、国際通貨基金や世界銀行、政府が肩代わりしていて、結局は、暴利をむさぼり続けるファイナンス機関を、ふつうの人々の税金で救済していることとなります。
でも、そのせいで家を失ったり職を失うふつうのひとびとに対しては、政府は全く救済しません。
ちなみに、グローバル・サウスのアルゼンチンや、グローバル・ノースである、ギリシャの債務危機も同じ構造です。
ギリシャの債務危機の際に、ギリシャの経済相をつとめた経済専門家の、Yanis Varoufakis(ヤニス・ヴァロファキス)さんは、ギリシャの国民投票の結果である、ギリシャのひとびとの命を危険にさらす緊縮財政を行わないこと(=欧州連合や国際通貨基金などが介入する構造計画調整を拒否、不当な借金を支払わない)を支持し、それによって生じる結果への現実的な対応策についても用意していました。
当時の左派だとみられていた政府は、国民投票を裏切り、EU(欧州連合)のプレッシャーに屈して、国際金融機構と欧州連合からの借金を受け入れる代わりに、ギリシャ国内の緊縮財政を行うことについて合意しました。
ヤニスさんは、この政府の裏切りを理由に辞職しました。
ヤニスさんは、経済の専門家でなくても、既に大きな借金がある友人に対して、全く払えるあてがないのに、新たにクレジット・カードをつくって、さらに高い金利で借りるようアドヴァイスするひとはいない、という常識を例にだして、払いようがない借金は、そこで債務整理をして(貸主側は、全額返ってこなくても誰かの命や生活が危機に陥るわけではない)、どのぐらいなら返せるのか、どのぐらいの期間を設定するかを交渉するべきだとしていました。
このやりかたでは、貸主側にしてみれば、全く返ってこないよりは、少しでも返ってきたほうがいいので、交渉に対して積極的だし、借りている側の力は強くなり、もともとの力の不均衡がある程度解消され、公平な結果を得られやすくなります。
このギリシャの緊縮財政では、突然、年金がもらえなくなった人々や、極端に減らされて生活できず、(緊縮財政で苦しんでいるほかの家族に迷惑になることを恐れ)静かに自殺した老人たちも多かったそうです。
多くの若いギリシャ人たちは、ギリシャを離れて移民して働かざるをえませんでした。
当時の人口の10パーセントが、ギリシャから他国へと移民しました。
この政策で、救済されたのはドイツ銀行などのファイナンス機関です。
これらの機関は、ギリシャが債務不履行になり、少ない額の返還を、数十年にかけて行うという合意がかわされたとしても、誰の命も脅かされませんでした。
現在は、ギリシャのソヴェレインデットは、債務危機のときよりも増え続けているにも関わらず、借金があるギリシャは、搾取・コントロールが容易にできるため、欧州連合、国際金融機構ともに、ギリシャの借金のレヴェルは危機状態とは全くいいません。
この構造計画調整を受け入れた結果、ギリシャでは、経済は25パーセント縮小し、貧困は二倍以上に増えたとみられています。
この図式は、明確で、「ひとびとの命や健康・尊厳<<<<<<<(西側)企業の利益」です。
グローバル・サウスに戻ると、グローバル・サウスのソヴェレインデッツは、植民地時代の搾取から生じています。
長い人民解放闘争(数百年にわたる場合も)をへて、植民地宗主国から独立を勝ち取ったとはいえ、当然ながら、植民地時代には自国の経済発展をとげることは全く不可能で、独立当初は、国民たちのサヴァイヴァルのために、お金を借りる必要がありました。
先述したように、本来なら、植民地宗主国(ほとんどがグローバル・ノース)が、これらの国々に賠償を行うべきであり、正義が行われていれば、グローバル・サウスが借金をする必要はありませんでした。
また、世界の国々の借金の利率を決めているのは、誰なのでしょうか?
これは、私営企業(もちろんグローバル・ノースの企業)で、国が借金を返すことができる能力によって、利率を決めています。
借金を返す能力が高い国は、債務不履行に陥る可能性が低いとして、低利率、借金を返す能力が低いと見られた国は、高利率となります。
でも、この借金の利率を決める機関は、西側政府と強く結びついていて、西側政府(=西側企業)に利益が出るよう、利率をコントロールしています。
この機関は、全く中立ではありません。
国の債務不履行についても、帝国主義の仕組があからさまに残っていて、グローバル・サウスの立場が非常に弱く、グローバル・ノースの立場がとても強い、力のバランスが最初から完全にグローバル・ノース側に偏った仕組となっています。。
国が債務不履行を宣言した場合、貸している側の国や機関は、ニューヨーク(アメリカ)かイギリスの裁判所に訴えることとなり、ニューヨーク州・イギリスの法律が適用され、ほぼ確実にグローバル・ノース側の政府や企業が勝訴します。
国際的な法律や貿易・経済の仕組は、権力の強いグループが権力や財力を持ち続けるためにつくられたものであることが大半であることにも気づいておく必要があります。
グローバル・サウスの経済が、世界のCommodity Prices (コモディティー・プライス/コモディティー/商品の価格)に大きく左右されて、借金がふくれあがるのは、グローバル・サウスの国々のせいではありません。
理由はいくつかありますが、先述したように、植民地であった時代が長く、政治的に独立しても、経済的に、植民地宗主国がつくった仕組である、植民地宗主国やほかの国々へ資源を輸出する経済(砂糖やゴムなどの単一栽培、国内輸送の方法があるのは原材料を港へ輸送する場所のみ等)から、自国の主権をもって発展させる経済の仕組みへと数年で変えることは、どの国にとっても不可能です。
原材料や食料などの輸出がメインの経済だと、国際的な小麦価格の変動などに大きな影響を受けることになります。
国際的な貿易は、関税ひとつをとっても、グローバル・ノースの政府・企業が圧倒的に有利な条件となっています。
世界のCommodity Prices (コモディティー・プライス/コモディティー・商品の価格)は、政治やパンデミックなどにも、大きな影響を受け、価格が下落します。
グローバル・サウスの国々には、これらの価格のコントロールはありません。
大きなコントロールをもっているのは、グローバル・ノースの大企業やそれらの大企業から大きな献金を受けているグローバル・ノースの政治家や政府です。
例えば、1970年代には、OPEC(オペック/石油輸出国機構)が石油価格を上昇させました。貧しかったグローバル・サウスの国々に、アメリカ、西ヨーロッパ、日本などは、お金を貸します。
お金を貸したのは、グローバル・サウスの人々のことを思うようなヒューマニティーからではありません。
ここには、冷たい戦争が背景にあります。
グローバル・サウスが植民地から独立した後には、多くが社会主義的な政策をとり、自国の資源を国有化し、国民の教育・病院などを無料、あるいは格安で提供し、貧困を急速に解消し、そのバックアップを中国や当時のソヴィエト連邦が行っていました。
社会主義的な政策を行う国々が増えるということは、これらの国々が、豊富な資源や労働力をどこに使うかという主権をもつことになり、格安の資源や格安の労働力・破壊し放題の自然などを搾取できる地域がどんどん減ることになり、グローバル・ノースの経済が立ち行かなくなるので、グローバル・サウスを借金をかたにコントロールしようとするいう意図でした。
これは、経済的な主権をもとうとしていた中国やソヴィエト連邦を孤立させ、崩壊を狙う意図もありました。
1980年代には、コモディティー・プライスが一気に下落し、かつ、アメリカが利率をあげたために、グローバル・サウスは一気に債務危機に陥りました。
先述したように、銀行やヘッジ・ファンドなどを救済するために、世界銀行・国際通貨基金がこの借金を肩代わりし、世界銀行・国際通貨基金は、グローバル・サウスに対して、借金をかたに、構造計画調整を強制し、西側政府・西側企業がその国や地域を搾取できるようにします。
ギリシャの例で記載したように、グローバル・ノースの政府や機関は、グローバル・サウスが借金を全額すぐに返すことを求めているわけではありません。
植民地時代のように、暴虐なやり方(虐殺、エスニック・クレンジング、集団殺人、包囲、人為的な飢餓、集団懲罰、アパルトヘイト、軍事クーデターでリーダーを西側の傀儡政府とするなど)での搾取は、国際社会から受けいれられにくくなったし、必ず現地のひとびとから抵抗がおき、それを抑え込むのに労力や武力も必要とするので、「国の借金」という方法は、あからさまな武力を使うよりもクリーンで、同じ結果(搾取)を得られることとなります。
先述したように、ギリシャの借金は、「債務危機」と騒がれたときより増え続けているにも関わらず、欧州連合も国際機関もギリシャの経済について何も言わないのは、ギリシャが構造計画調整を受け入れ、ドイツ銀行や西側のファイナンス機関のギリシャに対する貸付金は、国際機関に移り、ギリシャはほかの西側諸国や企業に搾取しやすく、コントロールできる状態にあるからです。
ギリシャの経済的主権は、奪われたままで、国民に選挙で選ばれた政府は、経済政策などにほぼ口をはさめず、これは民主的ではありません。
グローバル・ノースのファイナンス大企業が、ほぼ犯罪的な手法から、グローバル・サウスの借金を食い物にして暴利をむさぼっている明らかな例は、アルゼンチンでみられました。
アルゼンチンは、社会主義的な政策をすすめていたペロンさんが、アメリカがバックアップした軍事クーデターで取り除かれたあと、アメリカの言いなりになる軍事独裁制となり、極端な資本主義が導入されました。
これは、アルゼンチンだけでなく、多くの南アメリカ・中東・アフリカの国々に起こりました。
アメリカがインストールした軍事独裁者は、社会主義的な考えをもっているとみなした学生などを厳しくとりしまり、大人数のひとびとを牢獄にいれ、拷問にかけ、多くのひとびとを飛行機から落として殺すなどの残虐さで、現在でも行方不明のひとびとがたくさんいます。
左派だと疑われたひとびとの子どもたちはさらわれて、当時の政府の関係者で子どもを求めているひとびとに引き渡されたりしていました。
この軍事独裁政治中の極端な資本主義の導入は、貧困層を大きく増やすと同時に、少数のグループ(特に軍隊関係者)を極端に裕福にしました。
独裁政治は1983年に終わりを告げるものの、1980年代の債務構造調整では、アメリカの銀行が、アルゼンチンの国の借金を、Bond(ボンド/債権)として売ったことで、アルゼンチンの国の借金は、アメリカ銀行からほかのプライヴェート機関(外国の年金機構やファンドなど)へと移りました。
1990年には、とても大きなコモディティー・プライスの下落があり、ほかのグローバル・サウスと同様、借金を返すのに十分なアメリカ・ドル(外貨)を輸出からえられなくなり、貧困が増大し、景気後退が起こり、多くの市民のデモンストレーションが起こりました。
国は混乱状態に陥り、2001年には、債務不履行を宣言しました。
2002年から2005年には、借金・借金への利子を払うことをストップしたことで、経済は大きく回復し、貧困も大きく減らすことができました。
貸している側も、全く返ってこないよりは、交渉を通して少し返ってくるほうがいいので、アルゼンチン側は強い立場につけます。
そのため、借金の3分の2をキャンセルして、3分の1のみを支払うという協定をとりつけます。
ところが、Vulture funds (ヴァルチャー・ファンド/はげたかファンドー経営不振や破綻寸前の企業を買い取り、転売や上場によって利益、多くの場合は暴利をえる投資ファンド)とよばれる投資ファンド企業が、アルゼンチンのソヴェレインデットのキャンセルについて、ニューヨーク裁判所に、アルゼンチンを告訴します。
この投資ファンドは、アルゼンチンの借金をボンド(債権)として購入したとき、アルゼンチンの1ドルの借金に対して、1セントしか払いませんでした。
これは、90パーセントの利益で、暴利です。
この裁判には、10年以上かかり(裁判費用もとても大きい)、裁判所からは、アルゼンチン政府は、借金を支払うべきとされましたが、アルゼンチン政府は、再び、債務不履行を宣言しました。
話はここで終わらず、この数年後に、右派の政党が政権を握ったさい、アルゼンチンの国の借金を100パーセント支払うことを決定し、支払いました。
結局、この投資ファンドは、1500パーセントの利益を出しました。
ハイディさんは、こんな暴利が許されること自体がモラルとして間違っているとしています。
ラテンアメリカの右派の政党は、多くがアメリカ政府・アメリカ企業と強く結びついていて(個人的に賄賂などを含めてさまざまな利益をえている場合も多い)、それがこの結論へと導いたのかもしれません。
アルゼンチンは、国民の命や健康を犠牲にして、プライヴェート企業が暴利をむさぼる借金を払うべきではありませんでした。
ハイディさんが率いる団体は、国の債務不履行についての、不当な法律を変えるために働き続けていて、成功した例も少ないながら存在します。
ハイディさんの団体だけでなく、多くの国際的な団体が、この不当な仕組みを壊そうと闘っています。
借金のキャンセルなどについては、国際機関はある程度応じる傾向にあるものの、問題はプライヴェート機関の投資ファンド企業です。
また、中国は、こういった国の借金の減額やキャンセルに協力したことが多いものの、結局プライヴェート機関がこれらに応じないため、数か国や国際機関が借金のキャンセルを行ったところで、暴利をつけてグローバル・サウスからむしりとるプライベート機関からの借金が残ることになり、たいした助けにはなりません。
ハイディさんは、このDebt relief(デット・リリーフ/債務支払猶予)には、強制的にこれらのプライヴェート企業(投資ファンドなど)を協力させる仕組み作りが必要だとしています。
これらの暴利をむさぼる企業が、暴利をつけた借金が手に入らないからと言って、誰かが貧困に陥ったり死んだりすることはありませんが、グローバル・サウスの国々のひとびとの生死がかかっています。
地球上の誰の命も、同等に大切です。
また、気候変動での影響を受ける可能性が高い国として上位50に入る国々は、ソヴェレイン・デットの問題を抱えていて、かつ、これらの国々は、気候変動へ全く寄与していません。
これらの国々の多くは、国家予算の多くを借金の利子や借金を支払うことに割いていて、気候変動に必要なことに予算を割くことは難しい状態です。
ハイディさんは、グローバル経済・政治の仕組みは大きく変わる必要があるとしています。
繰り返しになりますが、グローバル債務危機の大きな原因は、銀行や投資ファンドなどの危険な投資商品などの失敗によってつくられた危機や借金を、これらの失敗を起こした銀行や投資ファンドに取らせるのではなく、国際通貨基金や政府に借金を移すことで、銀行や投資ファンドの失敗を公的な借金(=ふつうに働いているひとびとの税金から支払われる)としたことです。
これらのプライヴェート貸主は、何をしても絶対に責任を取る必要がないことを知っているし経験しているので、同じような失敗を何度も繰り返します。
これらの貸主には、責任を取らせる必要があります。
それには、国際通貨基金や国際銀行は、人権を基本方針として、中立的な立場を取る必要があります。(=ふつうのひとびとを犠牲にしてプライヴェート機関を救済するようなことはしない、帝国主義的な資本主義をすすめる構造計画調整を行わない、など)
また、仕組を変えるには、普通のマジョリティーのひとびとが政治や経済に関心をもち、政治についての教育なども広く行われることが必要です。
国の借金と、個人の借金は、違うとはいえ、共通点もあります。
ハイディさんは、借金を払わないのはモラルに欠けている、という一般的な見方は無意識に浸透しているものの、振りかえってよく考えてみることは必要だとしています。
この記事でお話したように、多くの借金は、不正な仕組みにより生じたものです。
たとえば、アメリカでは個人破産の一番大きな原因は、医療費の支払いだそうです。
これは、ひとの健康や命より、利益優先の資本主義で、医療費が異様に高いこと、健康保険が勤務先企業と結びついていることが大きくかかわっています。
病気・怪我をすることは、ひととして生きる以上、避けようがないので、セィフティー・ネットはしっかりとあるべきであり、これは基本的人権なので、勤務先と結びついているべきではありません。
(日本は、アメリカ同様、勤務先と健康保険は結びついているけれど、ヨーロッパでは、個人と健康保険が結びついていて、勤務先とは関係ない)
ヨーロッパの多くの国々では、医療(診察、入院ー入院中の着替えや食事・薬なども含む、手術などのすべて)は、基本的に無料です。
キューバはアメリカによる違法な経済制裁で貧しい国ではあるものの、教育・医療は無料で、多くのすぐれた医師が歩いて行ける範囲にいて、一般の人々の教養も高く、誰もが住める場所を提供されていて路上生活者は基本的にいないし、寿命もアメリカ人平均よりも長いそうです。
キューバは、外貨をかせぐために、多くのすぐれた医師団を世界中の国々に派遣して、地球上のひとびとを救っています。
キューバを訪れた友人たちからは、貧しい身なりのひとびとがとても教養の高いひとびとであることに驚いた(← 資本主義の西側諸国では、お金がないと教育も受けられないので、身なりの貧しい人=教育を受ける機会がなかったひとびと、となりがち)とよく聞きました。
ハイディさんは、ひとびとの命や健康、ひととして尊厳を持って生きるために必要なものやサーヴィスにアクセスすることが脅かされるとき、借金の利子や借金を返すことをストップ・キャンセルするのは、モラルとして正しいことだとしています。
国の借金と同様、貸す側の責任や経済・社会・政治の不正な構造を問う・変えることも大切です。
【参考】
Novara Media - ACFM Microdose: Making Sense of Sovereign Debt w/ Heidi Chow
https://soundcloud.com/novaramedia/acfm-microdose-making-sense-of-sovereign-debt-w-heidi-chow
Jason Hickel: The case of reparations
https://braveneweurope.com/jason-hickel-the-case-for-reparations