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21世紀のSocial Contract(社会契約)

Yoko Marta
14.09.21 04:26 PM Comment(s)

21世紀に見合った、新しいSocial Contract(社会契約)の必要性

 昨日は、OliverWyman`によって開催された子育てとキャリアの関連性についてのWebinarに参加しました。情報はここより。

 パネリストは、London School of Economicsのダイレクターでもある経済学者のMinouche SHAFIK(ミナッシュ・サフィーク)さんと、マスターカードのグローバルチェアであるAnn Cairnsさん。ミナッシュさんは、「What We Owe Each Other; A New Social Contract」という本を最近出版しました。この「Social Contract(社会契約)」という言葉は、日本ではなじみがないかもしれませんが、私たちが普通に生活を送っている中で常に関わっているものです。OxfordReferenceでは、「国家とその市民の間の権利と責任についての不文律(通常は、望ましく、お互いに認めている形での個人とその社会での人々との関わり)」とあります。具体的には、子供たちをどのように育てるのか、お年寄りの面倒をどう見るのか、教育がどうあるべきか、私たちが何を雇用主から期待するか等、日常生活の多岐に渡ります。日本のように家族・親類が相互のサポートを大きく担うことを前提としている社会もあれば、イギリスのように市場と国家が大きく担っている場合もあります。ミナッシュさんは、この文献で、先述のどちらのケースでも共通しているのは、「人々は、成長したときにCommon Good(公益)のために貢献することを期待されている。子供の頃、年を取ってから、或いは自分たちのことを自分たちで面倒が見られない状況に陥ったときに、社会から助けてもらうことと引き換えに」としています。公益のための貢献とは、子供やお年寄りの面倒を見ることも当然含まれています。これらは社会にとってとても重要な仕事のうちの一つであるにも関わらず、無給で見えない(正しく価値を認められない)仕事とされ、これを担う人々の多くは女性であり、結果的に公的年金を積み上げるのも容易ではなく、解決しなければならない問題だとWebinarでも挙げられていました。また、中国やヨーロッパ、アメリカでも5人のうち4人は、現在のシステムは機能していないと不満足です。子供世代は親世代より貧しくなる可能性が高く、閉塞感があります。ミナッシュさんは、いくつかの解決方法を挙げています。

 まず、現在の古いシステムの問題点から。以下のような前提で社会が作られていましたが、これらは既に機能しないと誰もが明確に言えるでしょう。

  • 女性が子供と老人の面倒を見る
  • 離婚はない (=男性の収入で女性の一生も賄われる)
  • 男性は一生を通して一つのプロフェッションで過ごし、家族を十分養える給料がある(=女性はPaid Workはしない)
  • 仕事は、18ぐらいまでに教育を受けた内容で十分。同じ仕事を40年ほど続ける
  • リタイアした後の人生はせいぜい5~10年

 いい変化では、現在は、テクノロジーが進んだこともあり、仕事の内容は大きく変わり、常に学び続け、複数のプロフェッションに適合していくことが必要となります。また、教育を受けた有能な女性が増え、仕事の場への進出も果たしてきました。難しい面としては、現在は平均寿命は延びており、人生の1/3程度がリタイアメント生活となる可能性が高く、公的年金や個人年金の見直しも必要です。また、仕事の形態も変わり、一つの収入だけで家族が一生暮らしていくことは難しいこと、離婚も増えたことで、上記の前提は全く今の状況に合わないものとなっています。また、気候変化も大きな要素であり、地域によっては、海面の上昇で住めなくなり多くの人口移動が必要であったり、旱魃や気温上昇によって今までの農業が続けられなくなり、大きな人口移動が起こる可能性もあるでしょう。

 ここで、ミナッシュさんが、新しい21世紀の社会契約として挙げているのは、「Security(安全性)」「Shared Risk(リスクの分担)」「Opportunity(機会)」の3点です。

  1. 安全性:大事なポイントは、「誰もが尊厳のある人生・生活をおくるための最低限の安全性へのサポートはあるべき」ということです。最低限の保障として、すべての人々に「基本的なヘルスケア」「最低限の公的年金」「病欠保障」「失業保険」「新しい技術習得へのアクセス」が必要です。現在は、フレキシブルで、Informalな働き方が増え、これは雇用主が市場の状況によって、簡単に雇用や解雇を行うことができる雇用主にとっては、都合のいいものですが、働く人々の安全性の犠牲の上に成り立っています。フレキシブルでInformalな働き方を可能とするのであれば、次の仕事が見つかるまでずっと、十分な額の失業保険が支払われ、新しい技術の習得へのサポートが行われ続けることがセットになっていなければなりません。 
  2. リスクの分担:現在は、上記にあるように、個人に不当に多くのリスクが背負わされている状況です。モラルという面だけでなく、経済という観点からも、エコノミックショック等は、社会全体でリスクを分担したほうが効果的です。子供や老人のケアについても、企業が負担する部分が大きいですが、これも税制等使って、社会全体で分担するほうが公平で効果的です。また、仕事の形態に関わらず、自動的に全員が公的年金と公的補償に組み込まれていることは必須です。
  3. 機会:不平等はどんどん広がり、貧しい世帯から真ん中の低いあたりに移行するには、格差の少ないデンマークでは約2世代かかり、イギリス・アメリカでは5世代、ブラジルでは9世代かかるというリサーチがあります。現在のシステムは、女性、マイノリティー、貧しい家庭の子供たち、貧しい地域・国々に生まれた人々が自分たちの持つ力を育み発揮することを妨げています。あるリサーチでは、これらの人々に、他の人々と同じ機会を与えると、アインシュタイン級の発見が4倍以上出てくるだろうとしています。大事なのは、早めの介入です。人間の頭脳は生まれてから1000日ぐらいの間に大きく成長します。そのため、赤ちゃんや子供をもつ両親へのサポート、子供たちに栄養をしっかり取らせることと、教育の機会を十分に与え続けることは大切です。また、先進国では男女の教育の機会平等は改善しましたが、家事や子供・老人のケアで女性に大きく負担がかかる状況は大きくは変わっておらず、これが女性の仕事を続けることに大きく悪い影響を与えています。チャイルドケアが税制を通して幅広く分担されることで、誰にとっても公平な機会となるはずです。

また、上記に付け加えて、国際的な仕組として、大企業は自分たちがビジネスを行っている国できちんと税金を払うように義務付けるグローバルな税制も必要だと指摘していました。国際的な大企業が、法律の抜け道を使い、税金をほぼ払わなくて済むような場所に会社を設置し、自分たちが実際にビジネスを行っている国や地域に相応の税金を払わないのは、法律には違反していなくても社会契約に違反することであり、不公平でしょう。

上記を見ると、高い税金や福祉国家を思い浮かべるかもしれませんが、そうではなく、機会と安全性を社会の中で平等に分配することによって、生産性も高まり、もっと効果的にチャイルドケアや仕事や健康のリスクも分担することができ、経済的に見ても意味を成すとしています。


ミナッシュさんは、Webinarでは、女性の社会進出について、いくつか興味深いことを言っていました。

  • ドイツのリサーチでは、子供が2~3歳の小さいうちは、親が子供と一緒にいることは大きな良い効果があると認められているが、それ以降は、子供たち同士、他の大人たちと関わることによる良い効果が大きく見られ、必ずしも親がいつまでも子供につきっきりでいることがいいとは言えない。ちなみに、イギリスではいわゆる小学校は4歳から始まります。
  • イギリスでは、大学を出て就職した時点では、男女の給与格差はほぼ無い。ただ、第一子が生まれた際に、マタニティーリーブでの仕事期間のギャップ、また子供がいると時短に切り替える人々もかなりいて、ここで給料が下がり、ここから給料を上げていくことは難しい。これはデータでも証明されている。
  • 女性は、社会に還元することが多く、長期的な視野をもっている人が多いので、現在のようにサステイナビリティが大事な社会ではビジネスに欠かせない

ミナッシュさんの働いているLondon School of Economicsでは、仕事の質をできるだけ平等にはかるツールを作成し、Informalで働く人々にも適用し、能力に応じた給料を公平に払えるよう努力しているそうです。これは、透明性があるという点でも効果が大きいでしょう。一つだけ付け加えておくと、ヨーロッパでは残業するのは能力がない証拠とされ、残業がプラスに働くことはありません。どんな仕事をしていても、プロフェッショナルであることが要求され、就業時間内に高い質の仕事を仕上げるのは当然のことと見なされています。

最後に、日本でときどき見かける議論として、女性の社会進出が男性の機会を奪っているかのようなものもありますが、ミナッシュさんは以下のように言ってました。私も同意です。誰にも平等な機会があり、彼/彼女らの能力を最大限に社会に還元していくと、良い機会はどんどん増えて、機械の取り合いをする必要はないでしょう。

 平等というのは、何かを「もっと欲しい」と要求しているのではなく、むしろ同じ権利を持つことだと理解しています

Yoko Marta