The Green Catalyst
The Green Catalyst
Creating futures we can believe in

2001年アメリカ同時多発テロからの新興

Yoko Marta
11.10.21 04:07 PM Comment(s)

公平でシェアする世界への転換ー トーマス・ピケティ氏

フランスの経済学者Thomas Picketty(トーマス・ピケティ)が、フランスの新聞ル・モンドに掲載しているブログで、20年前に起こったアメリカ同時多発テロ事件(英語圏では、September 11thと呼ばれる)についての興味深い考察を寄せていました。記事はここより。

私にはロンドンに住んでいるアフガニスタン人の友人がいます。彼の父は最初にソビエト軍がアフガニスタンに侵攻した際に、知識層だったことで拷問を受け、その後は、タリバンの侵攻で住んでいた町を破壊され、家族全員がイランに亡命したそうです。難民というと、Others(他人、自分たちマジョリティーの人々とは違う)で恐れたり忌み嫌う人々もいますが、私たちのように、仕事に行ったり学校に行ったり友人と会ったりと普通の日々を生きていた普通の人々が、個人では全くコントロールのできない他国からの侵攻や攻撃で、突然難民として何もかも捨てて他国へ亡命さざるを得なかったという事実を知ると、「彼らは私だったかもしれないし、私も彼らだったかもしれない」という気持ちになります。私にとって、難民の人々は顔の見えない抽象的な存在ではなく、私たちと同じ人間で、同じように人としての幸せを求める権利のある人だと感じます。これは、実際にこのアフガニスタン出身の友人以外にも、政治的な理由でイギリスに亡命さざるを得なかった人々に日常で会ってきたことも大きいと思います。対話は、人々の間の壁を取り払い、見えなかった景色が見えてきます。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件は、「悪の枢軸(アルカイダ)に対する戦争、報復」「文明の戦争」という名目で、2001年のアフガニスタン侵攻→2003年のイラク侵略(大量破壊兵器を持っていたというアメリカ・イギリスの国家レベルの嘘)→ イスラミック・ステートの建設 →2021年8月 西側諸国のアフガニスタン占領の終焉とタリバン統治の再開、という不幸な成り行きとなりました。イラクでは、確認されているだけでも10万人以上の市民が命を失い、実際にはもっと多くの市民が命を落としただろうとされています。

ピケティ氏は、「A new reading of the world(世界の新しい読み方)」が必要だとしています。
「文明の戦争」ということで、他国へ侵攻したものの、結局イラクの場合は大量破壊兵器を持っていないのに持っていたという国家レベルでの嘘を言い訳に侵攻したことが分かり、西側は国際社会の信用を失いました。また武力行使をしたことで、結局はさらに質の悪いイスラミック・ステートの建設を招きました。また、こういった状況で難民が増えた際、西側諸国は近隣の国々でどうにかしてほしい、として自分たちは関係ないという立場をとることが場合が多いですが、その国々に資源(ウラニウム等)があれば、真っ先に西側の大企業や国家が介入するのは、残念ながらよくある矛盾です。どの国も企業も、侵攻された国々の人々の生活や苦しみには関心がなく、自分たちがどう利益を得るかに関心があるのは明白です。
バイデン大統領も、素早くこのアフガニスタン侵攻・占領の終了の章を閉じようとしていますのが、ピケティ氏は大事なのは、この「文明戦争」を捨てて、「Co-Development(お互いが前に進むために、開発のリスクと得るものをシェア), Global Justice(グローバルでの公平・正義)」と置き換えることだとしています。
これを実現させるためには、繁栄を共有する明確、かつ検証可能な目的と、地球上のすべての地域がその居場所を見つけられる持続可能で、公平な新しい経済モデルの定義が必要です。現在、他国の軍事占領は、過激で反動的なセグメントを強化し、何の良い結果をもたらさないことに誰もが賛成します。今現在のリスクは、軍事権威主義のヴィジョンが、「孤立主義」と「経済的な幻想(モノと資本の自由な動きがあれば、富は自然に世界中に広がる)」に置き換わることです。後者については、現在のグローバル経済の高い階層的な性質から、豊かな西側の国々は、貧しい国々とは比較にならない富をもって年々さらに速いペースで蓄積し、国々の間、国の中でさえ、大きな格差を生み出していることからも、現在の資本主義(市場にまかせておけば、富は自然に広がる)が機能していないことは明白です。ピケティ氏は、Blogの中でその根拠となる資料も示しています。

2021年初期の国際的大企業(グーグル等)に自分たちの企業負担分を全世界に配分するという機会は失われましたが、ピケティ氏は以下を提案しています。
地球上のすべての国々が多国籍企業とビリオネアから、各国の人口に応じて収入のシェアを分配される
この理由としては、以下の2点を挙げています。
  • すべての人々は開発, 健康と教育へのアクセスの最低限の平等な権利があるべき
  • 豊かな国々の繁栄は、貧しい国々なしには存在しえない 
例)世界の人的・自然資源の搾取と、国際的な労働の分断。また、もともと西側諸国の繁栄は、植民地化で人的資源(奴隷)や自然資源を長年にわたって、大きく搾取してきたことから成り立っている。
この収入のシェアの分配の原則については、以下の2点が必要です。
  • 配賦基準 ← 基準は、ニュートラルでユニバーサルなやり方で定義され、どこにでも(国や地域に関係なく)同じように適用されなければならない
  • 収入のシェアの分配の権利を有するために尊敬されるべきルールは、基本的人権(特に女性と少数派に対して) 正確で厳しいルールである必要があります

この配賦金の濫用を防ぐために、以下が提案されています。
  • 不当な利益の追跡も一般化されるべきであり、公的または民間部門、南半球、北半球のどこでも、過度の豊かさに関する完全な透明性が必要
また、西側諸国は貧しい南の国々の自己統治と開発の権利を、南の国々の政治腐敗を理由に否定することを止めなくてはなりません。西側は、南の政治腐敗を声高に言うのと同時に、自分たちの利益のために、これらの国々の独裁者やオリガークに迎合してきました。無条件自由貿易の時代は終わりました。これからの貿易は、客観的な、社会的・環境的指標によるものでなければなりません。

バイデン大統領が、文明戦争の章を素早く閉じて次に行きたいのはよく分かります。
アメリカにとっては、脅威はもはやイスラム原理主義者ではありません。現在の脅威は、国際的には中国、アメリカ国内では、人種・社会的な断絶が国や機関を脅かしていること、市民戦争に準ずるものが起きている点です。事実は、中国というチャレンジにしろ、国内の社会的なチャレンジにしろ、経済モデルを大きく変更することでしか解決できません。もし、この意味で何も提案されなければ、貧しい国々や周辺の忘れ去られている地域は、彼らの開発の資金調達と秩序を維持するために、ますます中国とロシアに頼らざるを得ないでしょう。私たちは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件からの出口は、新しい孤立主義へと続くのではなく、国際主義とUniversal Sovereignty(ユニバーサル主権)という新しい方向への転換となるべきです。

Note: ピケティ氏は、中国の台頭や今後について、Kenneth Pomeranz氏による「The Great Divergence: China, Europe, and the Making of the Modern World Economy」を挙げていました。非常に興味深い内容(中国独自の社会主義の歩みとこれから、完璧なデジタル独裁主義、ヨーロッパの社会保障がいいのは、社会主義国の台頭によって、それに対抗しようとしたため、等)なので、ぜひ読んでみることをお勧めします。

Yoko Marta