良い土壌をつくるのは私たち一人一人の責任

Yoko Marta
09.05.23 04:42 PM - Comment(s)

良い土壌をつくるのは私たち一人一人

最近、RadioやYoutube等で、かなり違った番組を観たり聞いたりしていたのですが、一致しているのは「(社会としての)土壌ー私たち一人一人が作っていて、それぞれに責任がある」ということでした。


中国の小説家、Yu Hua(余華/ユイ・ホア)さんのアメリカでの インタビュー では、「China in Ten Words」(日本語では、英語とは全く違う題名の「ほんとうの中国人の話をしよう」というタイトルのようです)について語っていました。英語での通訳者がついていたのですが、彼は飄々としていて気取らず、語りがとても上手でした。中国語が分かればもっといいですが、英語が分かれば、こういったインタビューへのアクセスは圧倒的に多くなり、人生は楽しくなります。
天安門事件のことを書いているので、中国では発行を許されなかったそうです。ちなみに、アメリカでの発行の際には、「長すぎると売れないし、魯迅については西欧では誰も知らないから、その章は削除しない?」という提案には「村上春樹なんてぼくの小説なんて比べ物にならないほどの長さで書いているのに売れてるよ。どうしても削れというなら、僕は出版しない。」ということで完全拒否して、すべてを忠実に翻訳したものを発行したそうです。
天安門事件について、ユイさんは「(民主主義について)社会の土壌ができていなかった。一部の学生を除いて、一般の人々は誰も民主主義を理解しておらず、民主主義を求めていた学生たちも一般の人々を運動に巻き込むのには、党の腐敗政治のひどさについて持ち出すしかなかった。」と言っていました。

ロシアの現代作家、Mikhail Pavlovich Shishkin (ミハイル・シーシキン)さんによると、逆に、ソビエト連邦が崩壊したときには、人々は民主主義に移行する土壌ができていたにも関わらず、西欧諸国は、ソビエト連邦崩壊から自分たちの利益を得ることだけを考え、ロシアの人々からお金を盗んだオリガーク(新興成金)のお金をマネーロンダリングをすることを喜々として助け、結果的に民主主義に移行することをブロックし、犯罪国家になることを助けました。
西欧諸国は、犯罪行為には喜んで加担したにも関わらず、民主主義を誇りにしていながら、ロシアの民主主義を望んだ一般の人々が、犯罪国家になりゆく過程で飢餓や経済的に苦しむ状況を完全に無視しました。それが、現在の一般のロシア人の民主主義や資本主義に対する懐疑的な態度につながっているという意見もあります。
現在も、イギリスでも多くの高価なプロパティはロシア人が所有していることが多く、また保守党にもロシアつながりで多額の献金が行われていること、前首相の一人、ボリス・ジョンソン氏も在任中にロシアのオリガークの個人的な招待を受けていたのに、当時の政府に報告していなかったことが問題にもなっていました。ミハイルさんは、西欧諸国が、ロシアが民主主義に向かうことをブロックした責任の一端はあるとしていて、私も同感です。
ミハイルさんの最新の本は「 My Russia:War or Peace 」です。

国営放送 BBC Radio 4 では、マフィアに母を殺害された(遺体は見つからなかったけれど、様々な証言から確実)10代のイタリア人女性が、「マフィアの犯罪が止まらないのは、マフィアが息をして育つことができる土壌があるから。私たち一人一人がそれを作り、続けさせることに加担している。私たち、一人一人が沈黙の壁を破らなければならない」と勇気のある講演をしていました。
実際、物事は少しずつ変わり始め、シシリー島でも、地域によっては犯罪を目撃したことを警察に話すことをためらわない地域もあり、それは、徐々に広がりつつあるそうです。
また、勇気ある検察官が中心となり、マフィアの子供たちをマフィアの親や地域から引き離し、アイデンティティーを変え、違った人生を選ぶことを可能にしているプログラムも実行しています。
長い目で見れば、絶対に変わらないものはなく、良い方向に根気よく変えていくことは可能です。
それは、勇気ある一人のヒーローやヒロインにだけによって成立できるものではなく、社会の一人一人が、より良い方向に向けて行動していくことが必要です。また、悪いことを保持することに加担しないことも大切です。

また、これも国営放送BBC Radio4ですが、パンデミックを比較的うまく扱ったリーダーは女性が多かったのですが、これについて、アメリカ人歴史家・ジャーナリストのAnne Applebaum(アン・アップルバウム)さんが、「特定の社会では女性のリーダー(首相・大統領)を進んで受け入れる土壌(文化・人々の意識・社会)が存在すると考えたらどうでしょう。こういった社会では、人々が自然と協力してみんなの命や健康を守るために、自分たちから進んで規則遵守するでしょう。」としていました。
上記についての私のBlogは ここ より。

また、最近では、研修医であり、かつ気候変動正義活動家のMichaela Loach ( ミカエラ・ローチ)さんが、気候変動正義への道のりは長いけれど、活動をみんなをつなげて続けていくことで、土壌が整い(地下の(菌糸の)ネットワークがどんどん大きくなり)、ある日、一気にきのこが地上に出てくる日を信じて、小さなことに一喜一憂したりせずに、長い目で希望をたやさず活動を続けていると言っていました。国営放送BBCでのインタビューは ここ より。
ミカエラさんが最近出版した本は、「It's Not That Radical(そんなに急進的じゃない)」です。気候変動に関るさまざまな問題(人種差別、経済格差等)も大きな視点から分かりやすく語られていて、お勧めです。

日本の人々と話していて、よく聞くのは「何も変わらない/どうしようもない/政府・企業等が変るべき」等ですが、私たちがよく考えないといけないのは、一人一人がこの社会を形成しているということです。
ミハイルさんも、書いていましたが、ロシアの一般市民たちが変らなければ、またプーチン大統領のような人が出てきて力を握り、同じような帝国主義を掲げ、他の国に攻め入ることも十分考え得るだろうとしていました。
プーチン大統領は今のロシアの状況の「Sympton(症状)」であって、「Cause(問題の大元)」ではありません。
一般市民たちのつくる「土壌」が、プーチン大統領のような人を育て存在させているということです。

日本は、経済的にはまだ豊かな国であるにも関わらず、女性や子供の相対的な貧困が高い/自殺率が高い/過酷な労働条件/人々の健康や命より企業の利益を優先等の現状は、黙って耐えていても何も変わりません。
なぜなら、現在のシステムによって利益を得ている人々、或いはシステムが変った際の明るい未来が想像できない人々は、今のシステムにしがみつき、少しでも変わることを徹底的に妨害します。
これらの人々やグループや往々にして、社会的・経済的に大きな権力を持っています。
彼らは、自分たちの持っている(或いは持っていると信じている)既存特益の権力や経済力、社会的ステイタスを、たとえほんの少しでも手放すことは完全拒否するでしょう。

でも、ミカエラさんも言っているように、物事は変わり続け、変わらないものなんてありません
変えるためには、特に弱い立場に置かれがちな人々が今の抑圧的なシステムに対して、団結して、徹底的な抵抗を行い続ける必要があります。
それと同時に、より良い未来への想像力も大切です。

そうやって土壌が整っていけば、日本も、民主主義が活発に行われる場所、男女が対等で健全な社会(政治上でも女性リーダーが半分かそれ以上、男性から女性や子供へのさまざまなハラスメントや家庭内暴力・経済的暴力・搾取なし、給料や権限の差もなくなり女性一人・若者一人・老人一人・心身障害がある人も、貧困に陥らず男性同様に普通に尊厳をもって生きていける)となるでしょう。

あなたは、どんな社会をつくりたいと思いますか? 

Yoko Marta