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希望と楽観性を持ち続け、団結して抵抗し続けることの大切さー独裁政治は内部から崩壊させられる

Yoko Marta
22.02.24 10:41 AM Comment(s)

希望と楽観性を持ち続け、団結して抵抗し続けることの大切さー独裁政治は内部から崩壊させられる

Alexei Navalny (アレクセイ・ナヴァルニー/英語圏では、ナヴァルニーと発音され、日本で通用しているナワリヌイとは違います。でも、恐らく日本での発音のほうが現地語読みに近いはず)さんの死亡のニュースに伴い、ブリティッシュ(The UKの連合国4か国のうちのウェールズ国出身のウェールズ人)女性ジャーナリストの、Carole Cadwalladr(キャロル・キャドウォラダー)さんが、独立系新聞ガーディアン紙に興味深い記事を寄稿していました。


ちなみに、キャロルさんの名前のつづり(苗字も名前も両方)をみると、The UKに住んでいる人々なら、直観的にすぐにウェールズ人だと見当がつくと思います。ウェールズ語は、ウェールズ国とThe UKの公用語の一つで、ウェールズに住んでいる人々の約3割が話すとみられていますが、英語とは全く異なる言語で、発音も異なります。
ウェールズでも英語は100パーセント通じます。
ウェールズの公共機関(駅やバス、大学等)では、ウェールズ語と英語が併記されています。また、The UKの政府の公式文書や税務署のヘルプデスク等では、ウェールズ語と英語両方が用意されています。税務署に電話したときには、待ち電話でウェールズ語と英語が交互に流されていました。

アレクセイさん死亡の報道は、ミュンヘン安全保障会議の一日目にありました。
プーチン大統領やクレムリンが、死亡報道をこの日に合わせたのかどうかは、誰にも分かりませんが、ある意味象徴的だともとらえられます。なぜなら、ヨーロッパは、今、さまざまな面でヨーロッパが第二次世界大戦以降の最大の安全危機を迎えているとみられているからです。
ウクライナではいまだに国際法違反のロシアの侵略・占拠が続いており、中東でもイスラエルのガザ侵攻は続いています。ガザ侵攻に伴い、レバノン、イエメン、シリア、イラクといった別の中東地域の国々も、不安定な状況が波及し、中東地域と経済的・歴史的にも強いつながりのあるヨーロッパ諸国には大きな不安材料となっています。
また、軍事力の大きいアメリカの元大統領ドナルド・トランプさん(次の大統領の可能性あり)が、NATO(The North Atlantic Treaty Organization/北大西洋条約機構)について、「加盟国のうち、その国のGDPの2パーセントを軍事費に費やさない国については、たとえ他の国から侵略・攻撃されてもアメリカは助けない、それどころか、侵略・攻撃する側の国(たとえばロシア)に、何でも思う存分やればいい(いくらでも攻撃や侵略をすればいい)と言うでしょう」という内容を公言し、ロシアの脅威にされされている国が多いヨーロッパ(地続きだし距離的に近い)では、大きな不安を引き起こしています。

キャロルさんは、昔からアレクセイさんをよく知る人々と話しますが、誰もが、ロシアの体制側がアレクセイさんを暗殺しようと機会をうかがいつづけていることを知りつつも、アレクセイさんは、何度も危機をくぐりぬけていて無敵のような気がしていて、今ここで、死んだという知らせを受ける準備はできていなかったという感情をもつ人々が多いようです。

プーチン大統領は、アレクセイさんのことを恐れていて「彼は」「あの人は」ということばで、アレクセイさんの名前を公式な場で決して言わなかったことでも知られています。

キャロルさんの指摘は、プーチン大統領が恐れていたのは、アレクセイさん自身というよりも、どんな状況にあっても、アレクセイさんは新しいロシア(自由と民主主義)をつくることはできるという希望と楽観性を失わず、それが多くの人々に広く深く影響していく力だったでは、としていました。


プーチン大統領は、ロシアの国民にも愛されていないし、実際には支持もされていません。そうなると、彼がもっている人々を支配する唯一の力は、人々を「恐れ」続けさせることです。

私の以前のBlogで、アレクセイさんのドキュメンタリーについて書いた記事があるのですが、アレクセイさんが、人々に伝えた以下のメッセージは、今となると、さらに響きます。(ざっとした直訳です)

聞いて、私はとても明らかな何かをきみたちに語らなければならない。
きみたちは、諦めることを許されていない。

もし、彼ら(プーチン大統領を含むクレムリン)が私を殺そうとしたなら、私たちはとても強い力を持っている。

私たちはこの力をいかしてつかう必要がある。

諦めないためには、私たちはとてつもない力をもっていることを覚えておく必要がある。

この大きな力は、これらの悪い奴ら(プーチン大統領を含むクレムリン)によって抑圧されている。

私たちは、自分たちが実際にはどんなに強いのか気づいていない。

邪悪な力が勝つために必要なのは一つだけ-善良な人々が何もしないこと。

だから、何もしないということはしないで。

出典:ドキュメンタリー映画:Navalny

プーチン大統領が「弱い」ということは、プーチン大統領の敵としてよく知られている、アメリカ生まれでブリティッシュに国籍を変更した投資家・政治活動家であるBill Browder(ビル・ブラゥダー)さんも、元BBCのジャーナリスト3人が放送している「The News Agent」というポッドキャストで言っていました。
ビルさんは、人権侵害に関与した個人や団体に対して、国が制裁することを可能にした法律「マグネツキー法」の制定を大きく進めた人でもあります。
このきっかけは、ビルさんが経営していたロシアのファイナンス企業が突然立ち入り調査をされ、ありもしない罪状をかけられ、ビルさんはロシアから国外追放されたことから始まります。状況の調査のためにロシア人の弁護士セルゲイ・マグニツキーさんに頼んだところ、彼はロシアの税務感の巨額な不正行為を発見・告発し、その後、虚偽の罪状で牢獄へ入れられた後、獄死します。
この不正義に対して、ビルさんは立ち上がり、自分のコネクションや財力をいかして、このマグニツキー法の制定に駆け回り、現在は、アメリカやイギリス、ヨーロッパの他の国々でも法律に組み込まれ、人権侵害を行ったロシア人の資産凍結を行ったりすることが可能になりました。
当然ながら、プーチン大統領にとっては、このマグネツキー法はとても不都合なものです。
ビルさんは、このミュンヘン安全保障会議にも参加していました。
なぜなら、アレクセイさんと同じように、プーチン大統領の強力な政敵としてシベリアに投獄されている政治家・活動家のVladimir Kara-Murza (ウラディミール・カラ・ムルツァ)さんの命を救うためです。
ウラディミールさんは、過去に2回、毒殺されそうになりましたが、なんとか命を取りとめました。この毒のせいで障害が残り、健康状態もよくありません。
それでも牢獄にいれられるだろうことを知りながら、ロシアのウクライナ侵攻についてロシアの同胞に立ち上がるようよびかけるには、同じようにロシア国内からでないといけない、とロシアへ戻りました。
ウラディミールさんは、イギリスの市民権ももっています。
ウラディミールさんの健康状態は悪く、ビルさんは、今までにもよく行われている人質・政治犯・収監されている人々の交換(ロシア以外の国で投獄されているロシア人と、ウラディミールさんを交換して解放)ができないかどうかを、各国の重要な人々と話したそうです。
どうなるかは分かりませんが、政治的にはよく使われている手段であり、可能性はあります。
ビルさんは、アレクセイさんが殺されたということは、ビルさん自身も含めて、誰もが殺される可能性があることを理解しています
だからこそ、アレクセイさんと同じレベルのプーチン大統領への強力な政敵であるウラディミールさんの命を救うには一刻の猶予もないと信じています。
ビルさん自身の身の安全について聞かれると、、命を狙われていることは知っていて、ずいぶん前に、備えられるだけ備える生活に変えてそれを続けているので、特に今新たに心配することはないと言っていました。

司会者のエミリーさんに、「小学生の質問だと思って答えてほしいのだけれど、なぜ誰もプーチン大統領を殺さないのでしょう?」聞かれたときの答えは、とても興味深いものでした。

プーチンは、パラノイア状態に陥っています。それは、フランス大統領との話し合いで、とても長いテーブルの端と端で遠く離れて座っていたり、コロナ蔓延のときには、会う人々は限られて、しかも数週間の隔離期間が必要だったりすることからも明らかでしょう。彼の「弱さ」が、このようなふるまいをさせています
彼にはImpunity(インピュニティー/何をしても罰をうけないし責任を取ることをまぬがれる)もあれば、弱さもあり、この相反するようにみえるインピュニティーと弱さは同時に存在できます
ロシア人の誰もプーチンや政府を愛してはおらず、残されたのは、Fear(フィアー/恐怖)だけです。
恐怖は(有効に)機能します。
人々がとても怒り、怒りが何よりも勝り、恐怖なんてどうでもよくなる瞬間までは。
このとき、独裁政治は崩壊します。

エミリーさんの、「Uprising(アップライジング/反乱・謀反)が起こると思いますか?」という質問には、以下のように答えていました。

こればかりは、誰にも分かりません。アレクセイさんが投獄されることを分かっていてもロシアに帰ってきたのは、大衆の反乱・謀反が起こることに賭けたのだと思います。多分、彼は、プーチンが長期間大統領として君臨し続けるとは思わなかったし、誰かがプーチンを暗殺するとも思っていなかったでしょう。それ(大衆の反乱・謀反)は、プーチンが本当に恐れていることで、それに対するリアクションで、政敵を片っ端から殺し、独立メディアをつぶし、「戦争」を「戦争」といった人を長期間投獄することをしているのでしょう。これは、プーチンの「弱さ」であり、強いリーダーはそんなふるまいはしません

アレクセイさんも、キャロルさんもビルさんも、一致しているのは、どんなに暗い状況で希望や光が見えないように見えても、人々が団結して立ち上がれば、どんな体制もいつかは崩壊する、ということです。
外側(ロシア国外)からのプレッシャーもとても大切ですが、大きな変化は内部(ロシアの人々とロシア社会)からしか起こりえません。
そのTipping point(ティッピング・ポイント/ものごとが大きく変わる転換点)がいつ訪れるのかは誰にも分かりませんが、どんなに小さなことでも、市民が抵抗を続けていけば、どこかでTipping pointがくることは、今までの歴史でも証明されています。

また、独裁政治のトップがインピュニティー(何をしても誰にも罰せられない/責任をまぬがれる)と「弱さ(=弱いので、恐怖を使うしかなく、政敵の暗殺や市民の弾圧を徹底的に行う)」をあわせもっていることも覚えておく必要があります。
結局、これらの独裁政治のトップは、裸の王様でしかなく、多くの民衆がそれを正直に認め、抵抗しはじめれば、あっという間に体制は崩壊するしかありません。
どんなに不可能に見えていたとしても。

Yoko Marta