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国際女性デー:再生エネルギーと女性

Yoko Marta
11.03.24 06:26 PM Comment(s)

国際女性デー:再生エネルギーと女性

先週の金曜日(2024年3月8日)は、International Women's Day(国際女性の日)ということもあり、それに関連したIRENA(International Renewable Energy Agency/国際再生エネルギー機関) が主催したウェビナーに参加しました。
ウェビナーの題目は、Invest in Women: Accelerate Progress Through Renewable Energy(女性への投資ː 再生エネルギーを通して進化を速める)で、IRENAのサイトのここに説明があります。

イスラエルの歴史家のYuval Noah Harari(ユヴァル・ノア・ハラリ)も最近のSky News(イギリスの主要テレビチャンネルの一つ)で、女性ジャーナリストYalda Hakim(ヤルダ・ハキム)さんとの対談で、未来は、たとえ10年ぐらいのスパンでも、どう変わるか予測することは難しい、としていましたが、個人的には、さまざまな予測からも再生エネルギーに関しては、これからも確実に数十年にわたって伸びていくのは確実です。
ちなみに、ヤルダさんはベテランジャーナリストで、アフガニスタンから子供の頃に難民として家族でオーストラリアに渡り、そこで育ちました。中近東の文化(言葉も含めて)と西欧の文化共に理解できるジャーナリストの質問や対応は興味深いものがあります。
ユヴァルさんは、これからの未来の子供たちに必要なのは、不確かな時代を生きるために、自分自身を革新的な方法で何度も創造し、新たに物事を学びなおすことを生涯を通じて何度も繰り返し行うことで、それらには(新しいことや状況はエキサイティングな面もあるとはいえ)ストレスがつきまとうので、それに対応できる精神的な柔軟さが必要だとしていました。
ただ、この新しいこと(技術や開発も含む)への柔軟な対応については、一般的に子供と女性はとてもすぐれていることが既に証明されています
私の以前のブログのここより、男女の賃金差がほぼなかった時代(イギリス)で、女性と子供があっという間に新しく開発された技術に素早く対応した歴史を記載しています。

なぜ、再生エネルギーと女性という組合せなのか、ですが、このウェビナーだけでなく、多くのリサーチからも、地球温暖化によりネガティヴな影響を大きく受けるのは女性だと見られています。
また、子供たちの未来、地球や環境について深い共感と理解をもち、長期間に渡ったヴィジョンをもって考えられる女性はとても多いと見られています
そのため、女性の多くが地球温暖化を最小限に防ぎ、子供たちの未来を少しでもよくする役割を果たせる再生エネルギー業界は、本来はとても相性のいいものです。
また、再生エネルギー業界内での仕事は、比較的給料もよく、将来にわたって増えていくことが見込まれています。
IRENA(国際再生エネルギー機関)のPublication(出版物)のサイトにもありますが、2022年時点で、再生エネルギー業界での仕事についているひとは、全世界で1370万人となり、10年前と比べると、約2倍となっています。
このウェビナーでは、2050年には3900万人になると予測していました。

再生エネルギーは、国や地域によって地形や政策もかなり違うものの、全世界でみると、太陽光と風力がダイナミックな分野だと見られています。
日本も、Offshore wind(オフショア・ウィンド/海上風力)を大きく取り入れる政策をとっているようなので、風力がこれからも伸びていくことは確実でしょう。

女性が多く活躍している分野としては、太陽光があがっています。
ただ、それでも女性がついている多くの職種は、Administrator(アドミニストレータ/事務)で、マネージメントや技術職が少ないのは、これから向上させていかないといけない部分であると認識されています。

日本を含めて世界中のどの地域でも、女性や若い人々にとって朗報なのは、再生エネルギーは、さまざまな場所に分散されていて、今まで仕事の多い都市から離れていて仕事自体がとても少なかった地域にも仕事ができることです。日本だと、風力は、北海道や日本海側の地域にも作られており、今まで仕事につく機会さえなかった人々にも、機会が作られる可能性が高くなります。
風力一つをとっても、設置のための地元の人々とのコンセンサスをとる仕事や、保険、地域や環境への影響の把握、Bidding(ビッディング/入札)、実際のエンジニアリング技術と知識を必要とする設計や建設・設置、メインテナンス作業等、さまざまなスキルが必要とされます。
比較的新しい分野には、男性が常に優位的な仕事をするもの(例/男性は営業で、女性は営業補佐等)ができあがっていないので、女性や若い人々にも新たなやり方(女生と男性はイコールで、どちらかが上・下という序列がない)をつくっていきやすいでしょう。

今回のディスカッションのパネルには、世界中の地域から女性エンジニアやリサーチャー、再生エネルギー業界で働くさまざまな女性が参加していたのですが、彼女たちがぶつかり、乗り越えてきたきたことは、南アメリカでも、ヨーロッパでもアフリカでも、共通点があります。

まず、家庭から。
ウクライナの女性リサーチャーは、貧しい地域の貧しい家庭出身で、奨学金をかきあつめてなんとか西ヨーロッパの大学院に行き、結婚して子供を持った後は、夫が子育てをメインで行い、仕事で数年ごとに国をまたいで移動せざるをえなかった彼女についていく家庭の形をとりました。
オーストリアのリサーチャーも同じような状況で、男性が女性と同じだけ、或いはそれ以上家庭のことに関わらないと、仕事を続けることは無理だとしていました。
また、ある意味これは合理的でもあります。
男女平等が進んでいるヨーロッパですら、男性を優先して雇う風潮はどうしてもあります。そのため、キャリアを中断した女性と男性を比べると、男性のほうが圧倒的にキャリアを中断した後も、給料や待遇のよい職につける可能性は高くなります。
もちろん、家庭内でよく話合う必要はありますが、女性のキャリアに合わせて(子供が小さいうちは)男性が国を移動したり、仕事を変わったり中断するのは、ヨーロッパではそう珍しいことではなくなっています。

仕事面については、以下が挙がっていました。

  • 仕事に必要な道具を、小さな手や小さな身体でも使えるように変更
    実際、これは難しいことではありません。また、男性がすべて身長が高く手が大きいというわけでもないので、誰にとってもいい変化でしょう。
    また女性用のトイレや更衣室の設置も簡単に実現できることです。

  • リクルートメントのプロセスの変化
    仕事の募集時には、男性にむけてかかれているとしか思えないジョブ・ディスクリプションが多く、それを男性と女性両方にむけて書くだけで、女性が応募する割合が一気に増えたとしていました。特にラテン語起源の言語(イタリア語、スペイン語、フランス語等)は、動詞や名詞に男性形・女性形があり、募集要項のようなかたい文章だと男性形を使うことが伝統的に一般的だったそうです。日本語の場合、ラテン語のような男性形・女性形はないものの、男女をわける表現は多いので、そこに注意をする必要があるでしょう。

  • トップ・マネージメントからの変化
    トップや、技術職に女性が増えることも大切ですが、トップであるCEOから、強く女性と男性はイコール」であることと、「女性へのハラスメントは絶対に許さない(ハラスメントが起こった際のプロセスも明確で、女性が訴えを起こしやすく、フェアな調査が迅速に行われ、加害者は会社の決まりに沿って確実に責任を取らされる)」といったメッセージと、それに合致した言動を一貫して繰り返すことは大切だそうです。Trickle down(トリックル・ダウン/じわじわと浸透する)効果で、マネージメントの言動は、組織全体の人々の言動・心持の変化をもたらします。このNorm(ノーム/規範)は大切です。

  • ジェンダー・バイアスに気づき、なくす
    男性が多い業界のため、女性がチームに1人だけで、残りの9人がすべて男性といった場合、顧客とのミーティングで、女性がMeeting minutes(ミーティング・ミニッツ/議事録)を取ったり、お茶を買い出しにでかけたりすることを何も考えず当たり前と思っている男性も存在するそうです。女性と男性を異なったように扱うことは、法律違反でもあるし、マネージャーはこういった差別が行われることを許さない必要があるし、女性も、Noを突きつける必要があります。Noと明確に言いにくければ、これ(議事録やお茶の買い出し)は持ち回り制で、平等になるよう、持ち回り表をつくったほうがいいですよね、と提案してみてもいいかもしれません。ただ、何も言わずに受け入れてはいけません。一度、それが「当たり前」となると、その慣習を破るのは、とても難しくなります。また、女性は男性のアシスタント/男性の面倒をみるために存在するもの、と思っている人や、そういう風潮が強い環境では、セクシャルハラスメントも起きやすくなるので、最初から「私とあなたは、(性別が違おうと、人種や民族が違おうと)イコールな存在なんですよ」と言動で示す必要があります。

  • 女性に向けての奨学金、コース・トレーニング中の経済的なサポートや子供を預けるサポート等があり、かつ、それらが分かりやすく広報されている
    特に女性をターゲットとして、技術を学ぶコースは大切です。日本だと、女性は技術職や理系に向かない、或いは家庭や社会、学校から、女子を技術職や理系からはじきだそうとする傾向が近いように感じますが、実際に、女子が男子より理系や技術に弱いという科学的な研究結果はありません。東ヨーロッパで社会主義が長かった時代には、多くの女医や女性研究者がいて、国によっては女医が男性医者よりも長年ずっと多かった国もあります。

  • メンターと、女性にしぼったネットワーク・グループとリーダーシップ・トレーニング
    パネリストの多くが言っていましたが、メンター(女性でも男性でも可)がいること、女性のロール・モデルがいること、女性同士のつながりがあることは、とても助けになったと言っていました。ヨーロッパでは、男性の多くが日本と比べると考えられないほど大きく育児や家事をしていますが、それでも、仕事時間外のネットワーキングとなると、子供や老人の世話を引き受けがちな女性だと時間が足りなくて参加が難しくなります。そういう面からも、女性だけのコミュニティー(多くはオンライン、時々オフライン)は、とても役立つとしていました。日本だと、女性だけでも上下の序列をつくりたがる人々がいる傾向にある印象がありますが、ヨーロッパだと、フラットな関係で、カジュアルにお互い優しくサポートしあう環境です。そもそも、男性でも女性でも年齢・社会的ステータス・経済的ステータスに関わらず、常に上下の序列をつくって小さな世界で無駄な競争をくりひろげることは少ないと思います。それは、「誰もがイコール」という土台があるせいかもしれません。

日本社会が「誰もがイコール」な社会になるには時間がかかりそうなので、英語やほかのヨーロピアン言語(世界中の大部分の国が西ヨーロッパの植民地だったので、アフリカ大陸のフランスが支配していた国はフランス語、ポルトガルが支配していた国はポルトガル語というように、西ヨーロッパの言語は世界中の多くの地域で通じる)を楽しんで学んで、日本以外の国々で働くという計画もいいかもしれません。

一つ確実に言えるのは、時代の大きな変化は、再生エネルギーも含めて、今まで社会の隅においやられがちだった、女性や若い人々に有利に働きやすいことです。
変化を怖がらず、チャンスととらえて、新しい分野である再生エネルギー(しかも地球にも、ひとにも未来の子供たちや環境にも優しい)に挑戦するのは素晴らしいことでしょう。

【IRENA(国際再生エネルギー機関)の分かりやすくヴィジュアルな資料】
英語でのレポートを読むこともいいと思うのですが、かなり膨大なので、以下のように絵やグラフを使った簡易な資料を読んでみてもいいかもしれません。
こういった資料をみていて思うのは、英語・スペイン語・中国語を使用した資料や情報は幅広いですが、日本語となると、多くの資料は翻訳されていません。今後、日本の人口や経済が小さくなり影響力が弱まれば、さらに日本語へ翻訳されることが少なくなるのは気に留めておいたほうがいいかもしれません。AI等で翻訳の質は飛躍的に向上する可能性はありますが、ことばは、文化や歴史から切り離せないので、やはり自分でオリジナル言語で読めるのが一番です。

下記のサイトで、Infographics(インフォグラフィックス)のボタンを押すと、資料が分かりやすいグラフや図、絵で表示されます。英語に長く触れてなくても、大丈夫です。
https://www.irena.org/Publications/2023/Sep/Renewable-energy-and-jobs-Annual-review-2023

太陽光業界のGender Perspective(ジェンダー・パースペクティヴ/ジェンダーからの観点)の分かりやすい説明
https://www.irena.org/Digital-content/Digital-Story/2022/Sep/A-Gender-Perspective-on-Solar-Employment/detail

Yoko Marta