軍事主義と闘うことなしに、気候危機と闘うことはできない ④

Yoko Marta
12.12.24 05:29 PM - Comment(s)

軍事主義と闘うことなしに、気候危機と闘うことはできない ④

前回までの記事は以下より


気候危機と軍事主義の関係は見えてきても、それが日本に住んでいるひとびとと、どう関係あるのだろう、と思うかもしれません。
点と点をつないで考えることは重要です。
日本には、アメリカ軍の大きな軍事基地があり、近年、軍事費も増大しています。
イギリスを含むヨーロッパでも、軍事費は大きくなっており、それでなくても貧富の差が大きいイギリスでは、公共事業費がどんどん削られてきています。
公共事業に含まれるのは、ヘルスケア(病院やホスピス等)、教育、気候危機に備える資金(イギリスでも何度も洪水に見舞われる地域や海面上昇でコミュニティ―を別の地域に移動させざるを得ない場合も)といった、人々の安全に深く関わるものです。
また、現在のStatus Quo(ステータス・クオ/現状維持)である化石燃料(石油・ガス・石炭)をもとにし、どんどん地球を傷つけ続ける経済ではなく、地球を傷つけなくてすむような解決方法をとる資金も、公共事業に本来なら含まれるものです。
これも、私たちみんなの安全に関わっています。
イギリスはヨーロッパの中でも貧富の差が大きい地域ですが、日本はイギリスよりもさらに相対的貧困が高い国です。
日本では、パンデミックの際には、トップ10パーセントはさらに豊かになり、残りの普通の人々の生活は厳しくなった(特に貧しい人々の生活はより厳しくなった)という資料をみたこともあります。
軍事費用が増えれば、イギリスのように、市民の安全を守るためのほかの費用が減るのは確実です。
また、自分たちが「脅威」だと信じ込まされているものが、事実なのかどうかを検討する必要もあります。
ここには、主流メディアのいうことも鵜呑みにするのではなく、ほかの事実と比べることが重要です。
イギリスのメディアも政府も、アメリカよりは少しましとはいえ、国際企業にキャプチャーされていることで知られています。
それでも、日本のメディアの自由度は、イギリスのメディアよりも低いとする調査もあります。
イギリスのメディア、特に主流メディアの問題は、これらの主流メディアの編集部(記事の方向性やどういった主題を調査するかを決定)やジャーナリストは、一定の教育機関の出身で、小さい頃から、これらの教育機関で、現在ある政治・経済システムに疑問をもたないように育てらていると、独立メディアDeclassified UKのMatt Kennard(マット・ケナード)さんが言っていました。
マットさんは、主流メディアのFinanancial Timesで数年働きましたが、「ロシアがバックアップした軍事クーデータ」は修正されなくても、「アメリカがバックアップしたクーデータ(←事実できちんと証拠もある)」は、「アメリカ」の部分が編集によって消去されることに気づきます。
これは、「(特定のことについて)書いてはいけない」と命令されるわけではないですが、職をキープしたければ、これらの書かれていないルール(=アメリカについては事実でも悪いことは書かない)に沿う必要があると学ばされます。
マットさんの同僚たちは、こういった自己検閲(=ステイタス・クオを揺るがすようなことは言わない・考えることすらしない)を子供の頃から教育機関(イギリスでは私立学校はとても少ないのに、メディアの編集部は私立学校出身者の割合がとても高い)で徹底されていることを、彼らとは違う経路でジャーナリズムに入ったマットさんは見抜きます。
彼らは、「自分たちは、自分たちが見たもの、書きたいことを、誰かの検閲なしに書いている」と言うし思っているでしょうが、既に無意識に自己検閲をしています。
また、マットさんはジャーナリズムで知られているアメリカのコロンビア大学でも学び、在学中に、多くの国々や地域で軍事クーデーターを直接・間接的に起こし、民主的に選ばれた首相や大統領を取り除き、アメリカの傀儡政権(ほぼ全ては独裁政権で、その国の市民の多くが長年にわたって殺された)をすえた、キッシンジャー元国務長官がスピーチにやってきたときに、マットさんは彼の責任を問うたそうです。
でも、周りはキッシンジャーさんを讃える人ばかりで、教授の一人からは、マットさんはひどくなじられたそうです。
マットさんはなじられたことは気にかけていませんが、ジャーナリズムで知られている大学にも関わらず、誰一人、クリティカルに政治や歴史をみていない、或いは表明しないことに驚いたそうです。
そこには、授業料が異常に高いアメリカでは、授業料の返還には高い給料の仕事が必要であり、その仕事は現状の政治・経済システムに組み込まれていることもあるのかもしれません。
でも、ジャーナリズムは権力者の責任を問うことが重要な使命であり、もし自分の生活の安定だけを望むのであれば、ジャーナリズムではない別の給料の高い職業を選ぶべきだという意見もあります。
政府や企業のいう通りの嘘を繰り返すジャーナリズムは、社会にとって害になります。
日本の場合も、これに近い状況なのかもしれないし、もっとあからさまな検閲(首相への質疑応答については、首相官庁が選んだメディアのみがいることを許されると読んだ記憶があるのですが、これは民主主義では考えられないことです)があるのかもしれません。

Nick Buxton(ニック・バクストン)さんは、軍事の中でも、アメリカやヨーロッパが国境警備をとても強くしていることに気づきます。
アメリカの元大統領で、次期大統領であるドナルド・トランプさんが、メキシコとの壁で大騒ぎをしていたことを覚えているひともいるかもしれません。
この国境警備については、世界中の石油施設の警備をしているアメリカ・西側企業が深く関わっており、かつ、これらの警備企業の資金は石油・ガス会社が連結していることを、ニックさんは発見します。
国境の武装化には、特に極右派からのナラティヴ・プロパガンダ、「気候変化に導かれた『脅威(=犠牲者である難民や移民)』には、国境の武装化・軍事化で対抗する必要がある」からきています。

イギリスの軍事産業は大きいので、一般市民もある程度は知識がありますが、日本に住んでいると、軍事産業や国境警備産業については、今一つ想像がつきにくいかもしれません。
これらの利益目的の企業の最大でただ一つの目的は、株主に利益をもたらすことであり、そのためには、ひとびとの命や尊厳を犠牲にしてでも、ビジネス領域をひろげ、労働力や資源を搾取できるだけ搾取することは、心に留めておく必要があります。
また、近年ではDefence Industries(ディフェンス・インダストリーズ/「防衛」産業)という名目で、「軍事」産業といわない場合もありますが、これもプロパガンダの一つで、「防衛」というほうが市民たちからの指示を受けやすく、抵抗が少ないからです。
これは、石油系企業の、気候変動を加速するメタンでほぼできている燃料を、「天然ガス」といった呼び方にすることで、まるで無害であるかのような印象を与えること似ていて、一般市民たちの心理操作をしているのと同じ手口です。

国境武装化では、以下が起こりました。
Arm Firms(アーム・ファームズ/軍事企業)は、ビジネスを多角化し、ドローン、レーダー、国境を武装するシステムを提供しはじめました。
IT企業、例えば、IBMやUnisys(ユニシス)は、生体認証システムに関わっています。
航空業界は、難民や移民を強制的に国外退去させるフライトを運行しています。
ちなみに、イギリスからの強制退去のフライトでは、この強制退去自体がヨーロッパの人権に関する法律に違反するとのことで裁判所の命令で中止となったり、悪評の高い国際警備企業G4S(ジー・フォー・エス)の警備員が、無実の移民・難民を抑えつけて結果的に殺したりと、問題が起き続けています。
また、Advisory Service(アドヴァイザリー・サービス/プロフェッショナルサービス・投資/金融/経済/政策 顧問業)を行っている、PwC(プライスウォーターハウスクーパーズ)、Anderson Consulting(アンダーセン・コンサルティング)等が、国境の武装化をマネージするための政策やアドヴァイスを提供するビジネスを行っています。
どの産業も企業も、よりビジネスの機会を広げ(=ビジネスの領域を広げる)、儲けを大きくしたいと狙っています。

世界中に石油・ガス施設をもつ国際企業(シェルやエクソンモービル等)と契約している、石油・ガス施設警備企業は、国境産業の警備も担当しています。
Corecivic(コアシヴィック)は、アメリカで民営刑務所の運営もしている警備企業で、国境警備にも大きく関与しています。
このコアシヴィックとアメリカの大きなガス企業であるSouthwest Gasは、同じ人物がBoard of Directors(取締役)を兼任しており、かつ、このコアシヴィックの財源には、ほかの軍事企業にも大きく投資している、Vanguard(ヴァンガード)、Black Rock(ブラック・ロック)が投資を行っています。この後者2つの企業は、大きな軍事企業L3Harrisへも大きく投資しています。

1968年から2018年の間に、世界規模では63の壁が建築され、現在では地球上の10人のうち6人は、国境の壁がある国に住んでいると見られています。
ちなみに、上記の壁の数には、イスラエルが国際法違反で設置したパレスチナ地域での壁も含まれます。
この壁は、国際法の裁判所で、すぐに取り壊すように命じられたものの、いまだに残っています。法律だけでは十分でなく、ほかの国々がイスラエルにプレッシャーをかけ(経済制裁や国連から追放する等)、イスラエルの行動を変えさせる義務と必要があります。

2013年と2018年の間に、歴史的に温室効果ガス排出量が大きい7か国(アメリカ、ドイツ、日本、イギリス、カナダ、フランス、オーストラリア)は、この7か国合計で、国境と移民対策強化に約33ビリオン・ドルを費やしました。
これは、緊急に必要なクライメイト・トランジション・ファイナンスに費やした約14ビリオン・ドルの2倍以上です。

ヨーロッパ(欧州連合)の国境警備保障エージェンシーのFrontexでは、過去15年間で出資金を2700パーセント増大しました。アメリカでは、2000年以降、約2~3倍に増やしました。

これらの資金は、例えば、住んでいる地域を強制的に去らないといけなかった人々を、その地域や国内に留まり、尊厳のある生活ができるようにすることに出資することが可能でした。
でも、その代わりに、私たちは国境や移民政策の強化を通して気候変化の犠牲者である人々に対して、国境を軍事武装化するレスポンスに多額の資金を費やしています。
このせいで、多くの難民たちが命を失い続けています。
軍事化のせいで、多くの市民の安全を守る公共事業が大きく削られたことにより、経済先進国の普通の人々の安全もおびやかされています。
軍事化のせいで、より安全になったひとや地域はありません。
この状況から利益を得ているのは、前述した軍事複合企業のみです。

次回は、この気候危機に軍事的なレスポンスを行うことが、民主主義にも大きくネガティヴに影響していることと、どうレスポンスを変え、地球上の多くの人々にとってよい結果をもたらすことができるか、という希望について。

Yoko Marta