アートと政治は引き離されなければならない、アートは美しいものや気分のよいものだけ(誰にも不快感や不安を与えないもの)を扱うべきだという主張への静かな反論
In order for me to write poetry that isn't
political,
I must listen to the birds,
and in order to hear the birds,
the war planes must be silent.
アラビア語(オリジナル)→英語→私の日本語への直訳なので、アラビア語が分かるひとが英語を経由せず訳した場合は、韻を踏む等の、英語にはない美しさがあるのかもしれません。
政治的でない詩を、私が書くためには
私は、鳥の声をきかなくてはなりません
そして、鳥の声をきくためには
戦闘機は沈黙しなければなりません
マルワンさんは、1979年に生まれたパレスチナ人詩人です。
マルワンさんは、数年前に書かれた記事をみる限りでは、歴史的パレスチナ地域のイスラエルで生まれ育ったようです。
歴史的パレスチナ地域には、数世紀にわたって豊かな文明を築いてたひとびと、マルワンさんの祖先が住んでいました。
歴史的パレスチナ地域は、長い間、オットーマン帝国の一部で、オットーマン帝国がイギリスやフランスによって崩壊させられた後は、当時の大英帝国(現在のイギリス国ーThe UKはイギリス・スコットランド・ウェールズ・スコットランドの4か国の連合国だけど、イギリスだけが植民地宗主国)が覇権を握りました。
大英帝国は、原住民であるアラブ系の人々(=パレスチナ人:イスラム教徒とキリスト教徒が約97パーセントで、残りの3パーセントがユダヤ人ー数世紀にわたって問題なく共存)には相談なく、「ユダヤ人だけの国」をつくることをヨーロッパ・アメリカの(白人)ユダヤ人に約束し、短い間に大量のユダヤ人入植が起こり、イスラエル建国の時点では、約33パーセントぐらいまで増えていました。
ヨーロッパからやってきた白人ユダヤ人(アシュケナジ)は、シオニストという、入植者植民地主義(アメリカやオーストラリアのように、西ヨーロッパからやってきた白人が、原住民の有色人種を虐殺とエスニック・クレンジングにより、土地と資源を奪い、その土地のマジョリティーで支配階級となる)の考えを色濃くもつイデオロギーをもとに入植を行い、原住民と共存して生きていく気は全くなく、最初から、原住民をできるだけ多く取り除くことが計画にありました。
これは当時では、珍しい考えではなく、西ヨーロッパの多くの国々が、世界中の地域に対して行ってきたことです。
大英帝国は、植民地宗主国として、インドやほかの地域で行ったように、パレスチナ人を残虐に扱いました。
イスラエルの現在のパレスチナ人に対する戦争犯罪の多くは、大英帝国が行ってきたことの延長で、テクノロジーの発展を加えてさらに残虐に、素早く、大量に殺すことを可能にしています。
また、ここには、有色人種とみなされたひとびと全員(地球上の人類の約8割で大部分ー「人種」自体が、植民地化や奴隷制度などを正当化するために人工的に作られたもので、科学的な根拠は全くない)を、「人間以下の動物のようなもの」とみなし、「優秀でモラルも高く文明化されている完璧な人間である白人」は、この人間以下の動物に何をしてもいい特権がある、という考えも根強くありました。
「人間以下の動物」には、たとえどんなに長くその土地に先祖代々住んでいたとしても、土地や資源をもつ権利はなく、その土地を優秀な白人が自由に分割して使うのは当然の権利、ということで、これは、イギリスの元首相であるチャーチルさんも言っていたことです。
残念ながら、このイデオロギー(植民主義、入植者植民主義、帝国主義、白人至上主義)は、現在も、意識的・無意識的にひとびとの心の中にあり、かつ、司法や経済・社会の仕組みにも深く根を張っています。
イスラエル建国前から、パレスチナ人を追放しようとする動きは始まっていて、イスラエル建国時(1947年~1949年)には、ユダヤ人によるパレスチナ人虐殺、エスニック・クレンジングが行われ、当時のパレスチナ人口の約75パーセントにあたる、75万人~100万人が難民になったとみられています。
(資料:https://imeu.org/article/quick-facts-the-palestinian-nakba)
本来なら、虐殺やエスニック・クレンジングを行ってつくったイスラエルという国を、国連は認可するべきではなかったのですが、国連も結局は西側諸国が大きな力をもっていて、ヨーロッパ全域で行った長年のユダヤ人迫害とホロコーストから数年後であった罪悪感の強さもあり、認可されることになりました。
パレスチナ人は、数世紀にわたってこの地に住んでいた原住民であるにも関わらず、突然やってきたヨーロピアン系ユダヤ人に殺されたり、暴力で追い出され、なんとかその場に残ったとしても、イスラエル国内では、二級市民のように扱われ、日常的な差別が行われ、この差別は法律にも適用されていて、普通に住む・生きることをとても難しくさせ、何も悪いことをしていないのに、住居や市民権を失うことすらあります。
最悪な場合には、簡単に命も奪われ、赤ちゃんが狙撃されたことが確認されても、イスラエル兵が責任を取ることはありません。
ガザやウエストバンク、エルサレムなどの国際法で認められているパレスチナ地域の中でも、ガザでは国際法違反のイスラエルによる包囲が長く続き、現在はイスラエルによる虐殺が続いていますが、エスニック・クレンジングはすべてのパレスチナ地域でイスラエル建国時から続いていて、イスラエルの爆撃などのよる地域の破壊や市民の生活に必要な浄水施設の破壊などは、長年にわたって続いていますが、国際社会は沈黙か、アメリカやイギリスのように積極的にイスラエルの犯罪を助け、パレスチナ人団体が国際法違反を正式に訴えても、それをもみ消すよう法律を悪用してきた長い歴史もあります。
カナダ生まれ・育ちのパレスチナ人女性Diana Bhutto(ディアナ・ブットー)さんは、イスラエルに住んでいますが、イスラエルの法律には60ものパレスチナ人を差別する法律が存在しているとしています。
芸術は、政治とは切り離されるべきだ、という意見はよく聞かれますが、実際には、芸術は私たちのヒューマニティー、生きている現実から生まれるものであり、政治と切り離すことはできません。
マルワンさんの詩は、多くの言語に翻訳されているようですが、日本語での本の出版はないようにみえました。
私自身、日本を離れて25年ほどたつので、日本語で本を読むことはほぼないものの、ヨーロピアンの友人にすすめられて、たまに昔読んだことのある日本人作家の最近書かれた本を読むと、その薄っぺらさに残念な気持ちがすることがあります。
たまたま読んだ作家は、「書く」という技術は優れていても、とても恵まれた立場からの「知的に頭の中で想像した/構築した」悲しみや苦しみが書かれているように感じて、何一つ心に響きませんでした。
もちろん、たまたま良い本に出会わなかっただけというのも原因だと思いますが、英語で書かれている、あるいは訳されている本や記事は圧倒的に多く、出会うことのできる詩や文学、アートの範囲は一気に広がります。
マルワンさんの詩のように、英語という翻訳を通していても、心に深く響くこともあります。
ただ、どのようなアートの形態をとっていても、歴史を知っておくことは、理解を深めます。
【参考: アートと政治・抵抗】
「芸術家であることの理由は、証言をすること」とした、東ヨーロッパ出身のユダヤ東ヨーロッパのユダヤ人移民の親をもちアメリカで育った画家 ー Philip Guston(フィリップ・ガストン)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20231013
コソボでの虐殺を受ける側にいて、難民キャンプで子ども時代の一部を過ごした、出身芸術家 Petrit Haliajs(ペトリ・ハリアジュ)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/pot/20220511
ポルトガルの独裁政治時代を過ごし、民主主義や女性の権利について絵を通して闘い続けた女性画家=Paula Rego(パウラ・レゴ)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20210722
パレスチナ人難民としてレバノンで育った、イギリスを拠点に活躍する女性コンテンポラリー作家ーMona Hatoum(モナ・ハトゥム)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20231023
イスラエルによる爆撃で殺されたパレスチナ人詩人、Refaat Alareer(レファート・アラレア)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20231211
政治と芸術は切り離せないとした、劇作家で、民主主義にむけて闘い続け、最初のチェコ共和国の民主主義で選ばれた大統領となったVaclav Havel(ヴァーツラフ・ハヴェル)
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20240531
モロッコで生まれ育ち、現在はフランス在住でフランス語で家父長制について雄弁に反対する女性小説家、Leila Slimani(レイラ・スリマニ)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20230914
「物語という芸術は、最後に残された民主主義的な場所の一つであり、人間性を取り戻すためのレジスタンス 」とする、イギリス在住トルコ人の女性作家、Elif Shafak(エリフ・シャファック)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20210908
芸術を通してヒューマニティー、全体主義の中国政府への反対を表現する中国人アーティスト、Ai Weiwei(アイ・ウェイウェイ)さん
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20230313
民族浄化が起きたボスニアに育ち、その後のことも知っている女性小説家
Lana Bastašić(ラナ・バスタシッチ)さんが、自分の責任としてガザの虐殺について沈黙しないことを選択(ドイツのベルリンに文学者として数年招かれていたもの、ガザについて発言していることで、多くの講演をキャンセルされているーそれでも彼女には後悔はない)
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20231114