ガザへ向かったハンダラ号と、ハンダラを描いたナジーさん

Yoko Marta
12.08.25 02:43 PM - Comment(s)

ガザへ向かったハンダラ号と、ハンダラを描いたナジーさん

ガザの封鎖を破るために、航行していたグレタ・トゥーンベリさんが乗っていた船、Madleen(マドリーン号)は拿捕され、グレタさんを含む乗組員はイスラエルへと連れ去られ(←国際法違反)、その後、国外追放となりました。
私の記事はここより。

もちろん、ここでも諦めるという選択肢はなく、このFreedom Flotilla Coalition(フリーダム・フロティラ連合)の別の船、「Handala(ハンダラ号)」が、ガザへと向かっています。
ハンダラ号の位置は、ここで、実況されています。
(2025年7月28日現在の情報では、7月26日にガザから約100キロメートルの国際海域で、イスラエル兵たちによって拿捕されたと報道されています 。もちろん、これはイスラエルによる国際法違反です。)

下記は、2025年7月25日時点での内容となります。

ハンダラ号は、マドリーン号のときと同じく、既にさまざまな妨害(恐らくイスラエルによるももの)を受けています。
2025年7月20日早朝には、船のプロペラに、ロープが固く巻きつけられているのが見つかりました。
これは、偶然の事故で起こることではなく、故意に行われたことは明らかです。
同じく7月20日に、料理や洗い物のために使う飲料水のタンクが届けられましたが、それは硫酸でした。
これは、乗組員の男性の足に少しかかり、彼はやけどをしました。
また、もう一人の乗組員は、このタンクから化学薬品のにおいがしたため、確認しようとして蓋をひらいたときに、手にやけどをおいました。

でも、乗組員たちは、これらの妨害にひるむことなく、航海を続けています。
乗組員たちは、欧州連合議会の議員、Al-Jazeera(アル・ジャジーラーカタール政府出資のメディア)のジャーナリストなどで、誰もが市民で、武器ももたず、船の積み荷は救援物資のみです。

7月24日には、無線妨害を受け、連絡が取れなくなったものの、現在は、連絡が取れる状態になっているそうです。
世界中の誰もが気にかけていることは大切です。
私のブログでも書きましたが、以前、イスラエルの封鎖を破ろうとしてむかった、多くの乗組員がトルコ出身だった船の乗組員は10人以上が殺されました。
世界中のひとびとの目が向けられていることが明らかであれば、パレスチナ人に対してだけでなく、多くの国々でテロ行為・暗殺を行い続けているイスラエルにも、あからさまな殺人を行うことは難しくなります。
なぜ、イスラエルが虐殺を行うまでエスカレートしたかというと、西側諸国が、イスラエルのテロ行為や国際法違反の数々を常にかばい、impunity(インピュニティー/処罰を受けないこと)を77年以上、ずっと許しているからです。
また、アメリカやイギリスなどの元植民地宗主国・移住者植民地主義国・帝国主義国が、自分たちは国際法や国際的な決まりから自由で好き放題にほかの国や地域に侵略し資源を盗み続けているのに、ほかの国々(世界のマジョリティーの約8割で、ほぼすべてが元植民地国)に対しては、国際法を守るよう強制するダブル・スタンダードを続けていることも、国際法や国際ルールを、とても弱くしました。
もちろん、国際法や国際ルールは、元植民地宗主国と移住者植民地主義である西側の国々(イギリス、フランスなどの元植民地宗主国とアメリカ・オーストラリア・カナダなどの移住者植民地主義国ー祖先は白人ヨーロピアン)が覇権を保つためにつくられた側面も大きいものの、二つの世界大戦で多くの人々がヨーロッパ大陸で殺された・死んだことを反省し、戦争を二度と起こさないようにする目的もありました。
ただ、ここには、上記の西側の国々が、ほかの地域(ヨーロッパ以外の世界中の地域)で行い続けた、非白人である原住民に対する虐殺、土地や資源を奪うこと、地域の人々を残虐に奴隷のように無料の労働力として扱ったり、奴隷貿易を行ったこと、人工的に大規模な飢餓をひきおこしたことへの反省は全くありませんでした。
人工的な飢餓は、元植民地国のほとんどの地域で、長い闘いを経て元植民地国が独立を勝ち取るまで何度も引き起こされました。
例えば、現在のバングラデシュ(当時は大英帝国の植民地国だったインド)では、18世紀後半には、他国に売りつけて利益を得るためのオピウムをバングラデシュのほとんどの畑で栽培させ、飢饉がおこり、200万人~300万人の原住民が飢饉で殺されましたが、当時も現在も、それに対する反省はありません。
もちろん、栽培するという労働を行っていたのは原住民のひとびとで、他国に売りつけた利益は、植民地宗主国である大英帝国(現在のイギリス)へとわたり、原住民のひとびとには何も残されません。
この仕組・構造は、現在も生き残っていて、元植民地が独立した際には、植民地宗主国との植民地化による数百年の搾取・原住民への差別(土地や商売への権利がなく、教育・職業もとても限られるなど)、長い闘いで疲弊していて資金も乏しく、資源はほぼ元植民地宗主国の大企業に握られていました。
国際通貨基金や世界銀行は、これらの元植民地国に対して、高い利率での借金を背負わせただけでなく、その借金の使い道を自国の教育や福祉・健康の向上に使うことは許さず、輸出主体の経済とし、西側諸国の国際企業を受け入れ、パイナップルやマンゴなどだけの大規模の単作で、その地域の人々にとって必要な日常の作物の栽培はほぼできず、世界情勢や経済が少し不安定になると、飢餓へと陥ることが容易に起こります。
西側社会では、これらの元植民地国は、政治腐敗で白人のように優秀な人たちがいないとまともに国の運営もできない、というプロパガンダを植え付けますが、これは、植民地主義・帝国主義のつくったシステムが、いまだに元植民地国の経済を支配し、元植民地宗主国・移住者植民地主義の国々の利益をだす道具となり、元植民地国が発展できないようにしているからです。

もし、正義が行われていたとすれば、イギリスやフランスといった元植民地宗主国は、元植民地国に賠償金を支払い、彼らの資源のコントロールを手放し、これらの国々が自分たちのペースで発展できるよう、少なくとも、その邪魔をしないようにはできたはずです。
現実は反対で、フランスの支配下から独立したハイチは、独立したことでフランスへの借金を背負わされ(奴隷や領地を失ったフランスへの賠償として。。。)、借金を支払い終えたのは最近のことです。
本来なら、このハイチへの借金は帳消しとされ、そのうえで、賠償金が支払われるべきでしたが、フランス政府は、全くそれに応じませんでした。
多くの元植民地国は、自国の国家予算の3分の1近くが、借金の支払いに使われていて、これでは、どんな国でも発展するのは難しいはずです。

ちなみに、元植民地宗主国であるイギリスやフランス、ベルギーなどは、世界中の地で植民地国に対して、虐殺を行ってきた長い歴史がありますが、反省しているのは、ユダヤ人に対する虐殺だけで、それは、ユダヤ人が白人で、かつ虐殺が起こったのがヨーロッパ大陸だったから、という人種差別だとみられています。
それまでの限りない数の虐殺は、白人から非白人に対するもので、ヨーロッパ大陸から遠い場所で行われました。
カナダ・アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドは、侵略者であるヨーロピアン白人キリスト教者が、先住民のひとびとを虐殺して、侵略者がマジョリティー・先住民として置き換わった地域で、イスラエルと同じ仕組みの移住者植民地主義です。
これらの国々では、歴史が始まるのは、ヨーロピアン白人キリスト教者が侵略してからで、この侵略は、侵略とはとらえられず、「勇敢な英雄が誰もいない荒地にやってきて、勤勉さで文明を花開かせた」という偽りの神話が、いまだにまかりとおっています。
自分たちが、イスラエルのように、先住民たちを殺して先住民から盗んだ土地の上に住んでいることを無意識化では知っているので、イスラエルをかばい続けるのでは、という説もあります。(イスラエルの行動を否定すれば、自分たちの祖先ーそんなに昔のことではないーも否定することになり、自分たちも、盗んだ土地を返還したり、自分たちの今の快適な生活が少しでも崩れたり、自分のイノセントなイメージを壊すことに耐えられない)

グレタさんが乗船していたマドリーン号は、ガザで初めての実在する女性漁師の名前からきていました。
今回のハンダラ号は、`政治的な風刺漫画を描いていたパレスチナ人、Naji al-Ali(ナジー・アル=アリー)さんがつくりだしたキャラクターの、「ハンダラ」からきているそうです。
ナジーさんは、カタールの新聞社のロンドン支店で働いているときに、新聞社のオフィスの前で暗殺されました。
50歳間近でした。
何人かの容疑者が逮捕され、イスラエルの諜報機関とパレスチナ解放機構のダブル・エージェントもいたようですが、結局は、誰が犯人かは分からないままです。

ナジーさんの才能を見出し、ナジーさんが新聞社で描くことを生かして働けるよう機会をつくったのは、パレスチナ人作家・詩人・ジャーナリストのGhassan Kanafani(ガッサン・カナファーニー)さんですが、彼も、36歳で、イスラエルにより、レヴァノンで暗殺されました。
ガッサンさんは、車に爆弾が仕掛けられ、一緒に車に乗っていた10代の姪も殺されました。
ガッサンさんもナジーさんと同じく、多くの殺人脅迫を受けていたものの、気にすることはない生活を送っていて、ガッサンさんが毎週同じ日に姪を学校に送ることがわかっていての暗殺で、これはイスラエル国外で行われた、イスラエルによる多くのテロ行為の一つです。

ナジーさんもガッサンさんも、子どものときに、ユダヤ兵により先祖の地から追い出され(ナクバとよばれる)、近隣国の難民キャンプで過ごしました。

ナクバが起きたとき、ナジーさんは10歳だったそうです。
ハンダラのキャラクターは、ナジーさん(ナクバで同じように故郷を追われた多くの子どもたちも含めて)の失った少年時代を表しているそうです。
このキャラクターは、後ろを向き、後ろに手を組んで、つぎはぎのある服を着た、はだしの少年です。
武力で脅され(ユダヤ兵は、多くの虐殺・レイプをパレスチナ人の村々で行った)、着の身着のままで出ていったナジーさんの家族は、隣国のレヴァノンの難民キャンプで、とても貧しい時代を過ごしました。
パレスチナの地に帰ると、また育ち始めると決め、それまでは顔も見せないし、成長しない、10歳のキャラクターにしたそうです。
残念ながら、イギリスのロンドンで暗殺され、ナジーさんが生きている間に、このキャラクターが顔を見せる・育つ機会はありませんでしたが、今後、その鍵を握っているのは、パレスチナ人たちと、世界中のヒューマニティーを大切にする私たちです。
ちなみに、家を暴力で追われたパレスチナ人たちは、国際法で自分の家に帰ることが保障されているにも関わらず、イスラエル政府は、国際法を完全に無視して、パレスチナ人が自分の家に戻るどころか、パレスチナ地域を訪れることすら許さないケースが大半です。

「ハンダラ」という名前は、パレスチナを含むレヴァント地域(東部地中海沿岸)に自生する、とても苦い実をもっているスイカに似た植物と同じ名前だそうです。
このキャラクターは、今でも、多くのパレスチナ人や、世界中の人々から愛されています。
ハンダラは、とても愛情深く、正直で、率直だからです。
ハンダラが、後ろで手を組んでいるのは、(特にアメリカや西側諸国、一部のアメリカのコントロール下のアラブの国々からの)ネガティヴな潮流(パレスチナ人は、パレスチナへ戻る権利をあきらめて、少しだけの土地をパレスチナ国家とする妥協案に賛成するべきだというもの)を断固として拒否する意志を表しています。

実際、パレスチナ解放機構のアラファトさんが、ほんの少しの土地をパレスチナ国家とし(イスラエル国家が大部分の土地を国家とすることを認める)、パレスチナ全員が祖先の地に戻ることは条約に入れられなかった、パレスチナ側が一方的に妥協させられたオスロ合意は、オスロ合意の話し合い中にも、イスラエルがどんどん国際法違法でパレスチナ人を追い出し、占領地域をひろげていたにも関わらず、仲介役で、条約が守られるよう保障する立場にあったアメリカは何もしませんでした。
このオスロ合意は、イスラエルにさらに多くのパレスチナ人の土地を占領させる機会をつくり、イスラエルはパレスチナ国家を認めることを拒否し続け、オスロ合意の前から、多くのパレスチナ知識人からの非難が起きていましたが、その非難は、正しいものであったことが証明されました。

パレスチナ人作家・詩人のMohammed El-Kurd(モハメッド・エル=クルド)さんがあるポッドキャストでも語っていて、ガッサンさんも同じように指摘していたのですが、先住民たちの中のエリート(社会階級が上、大地主や豪族など)は、自分たちの権力を自分たちのコミュニティーの中で保つことにこだわり、植民地宗主国側に協力することは多いそうです。
ただ、パレスチナ地域の場合、先住民のパレスチナ人エリートではなく、侵略者であるヨーロピアン白人のユダヤ人を植民地宗主国(大英帝国ー現イギリス)の手先・パートナーとして、先住民のパレスチナ人を残虐に抑圧しました。
この植民地宗主国側が先住民のエリート階層を取り込み、自分たちの手先・パートナーとして使って先住民を抑圧したのは、中東やアフリカ、アジアなど、世界中で起こったパターンです。
支配や抑圧がある場所には、いつも腐敗が現れます。
支配や抑圧があることが間違いで、それらがなく、誰もの命も尊厳も同等なもので、守られなくてはいけません。

パレスチナ解放機構は、もともと、パレスチナ人の祖先の地に戻るライツや、パレスチナの自治権、自由、ひととして尊厳をもって生きるライツ、正義などを求めていましたが、トップはエリートが多く、目標が達成できるまではとても時間がかかりそうなことをみて、とりあえず、自分たちが生きている間に可能なのは、少しの領地でも自分たちの国をもち、そこで自分たちエリートが統治するという近視眼的な考えに陥ったのでは、としていました。
実際、パレスチナ自治政府は、大英帝国が植民地宗主国の役割を果たしていた時代のユダヤ人と同じ役割として機能し、イスラエル政府のパレスチナ人支配・抑圧のパートナーとなっていて、警察国家の仕組みをつくり、イスラエル政府の手先・パートナーとして、パレスチナ人を残虐に抑圧する役目を担っています。
パレスチナ自治政府は、その引き換えに、経済的・社会的にイスラエルから優遇されてきたそうです。
これは、ほかのアラブ諸国の状況とも似ていて、アメリカからの強い影響や支配を受けることと引き換えに、王族などの一部のひと(市民からの支持はない)が権力を保てることを保障してもらい、市民たちを強く抑圧する警察国家をつくっています。
世界中で、アメリカの強いコントロール下にいないのは、キューバ・イラン・中国ぐらいだと言われています。
パレスチナ自治政府は、イスラエル政府の手先・パートナーとして同胞のパレスチナ人たちへの抑圧を直接行っていたものの、イスラエル念願のパレスチナ人消去(虐殺、エスニック・クレンジング、人工的な飢餓などで大量に殺人し、子供たちも健康に育つことを不可能にし、たとえ生き残ったひとがいたとしても、「パレスチナ人」というアイデンティティー、文化などを保てないようにするーアメリカやカナダが先住民である人々に行ったのと同じように)が現実になりつつある今、イスラエル政府は、パレスチナ自治政府を取り除く姿勢を見せています。
パレスチナ人の間では、すでに話し合いがもたれていて、この虐殺が沈静化したあとには、パレスチナ人の多くが納得できる一時的な専門家の集まった暫定的な政府が設けられ、最初の選挙が行われるまでは、パレスチナ人のためにパレスチナ人による政治が行える準備は既にできています。

ナジーさんは、階級への目も鋭く、いつも、貧しい人々に寄り添っていました
ナジーさんは、「貧しいひとびとは、苦難にあうひとびとで、刑を宣告され(←多くの場合は無実ー抑圧者側が何をしても犯罪にはならないけれど、抑圧された側が少しでも抵抗すれば罪となる)、涙を流すことなしに死にます」と言っていたそうです。
ナジーさん自身も、パレスチナの地から、イスラエルによって暴力的に追われたあと、レヴァノン、クウェートなどに移動せざるをえず、何度も、政治的な見解が原因で牢獄に入れられました。
それでも、ナジーさんは、本当のことを言うことをやめず、パレスチナ解放機構、エジプトや中東地域のリーダーへの批判を続けました。
ナジーさんの風刺画には、ハンダラが裁判を隅っこでみている姿があったりしますが、ナジーさんにとって、ハンダラは、自分が(モラルや信念、本当の意味でのイノセンス、普遍的な正義の感覚から)滑り落ちることを止める役割もしていたそうです。

【参考】
Palestinian Feminist Collective(パレスティニアン・フェミニスト・コレクティヴ)によってつくられた、ハンダラの物語(漫画で読める)と、パレスチナの自由のために私たちに何ができるかについても書かれています。

https://palestinianfeministcollective.org/wp-content/uploads/2023/07/Handala-Childrens-Workbook-Updated.pdf

Yoko Marta