虐殺をノーマライズすることに抵抗する ー ヒューマニティーを持ち続ける
国連特別報告官(占領されているパレスチナ地域)のFrancesca Albanese (フランチェスカ・アルバネーゼ)さんは、「From economy of occupation to economy of genocide(占領の経済から、虐殺の経済へ)」という題名のレポートをまとめ、虐殺・占領がとまらないのは、企業や団体・機関が、虐殺・占領を通して大きな利益を得ていて、これらの企業や団体・機関をデータをもとに名指しして、国際法・人道的な面からも、すぐに虐殺・占領に加担することを止めるべきだとするものです。
また、国連での質疑応答にこたえる場面でも、名指しされている企業だけが問題なのではなく、もっと大きなグローバルな構造の問題であり、それを壊さなくてはならない、と明言していました。
レポートの内容は、英語で、ここからみれます。
武器の製造・供給を行っている企業だけでなく、多くのテクノロジー企業、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、IBMなどがあがっています。
IBMは、ナチのユダヤ人虐殺にも深く関与していたことがよく知られています。
多くは、アメリカやヨーロピアン企業ですが、日本企業では、ファナックが挙がっています。
ファナックは産業用ロボットでは世界4大メーカーに入るようですが、パレスチナ人虐殺につかわれる武器の製造に、ファナックの製品が使われていることが確認されています。
BDS Japanのサイトのここに、ファナックについての状況が分かりやすく書かれています。
戦争ジャーナリストとして、パレスチナ地域も含む世界中の地域で暮らしたChris Hedges(クリス・ヘッジ)が、フランチェスカさんへのインタヴューも含めた記事のなかで、フランチェスカさんは、以下を明言しています。
「国際司法裁判所で定められた決定(=イスラエルが虐殺を行っている疑いが強い)により、国際司法裁判所は、すべてのentities (エンティティーズ/存在する・実在するもの)に対して、(パレスチナ人虐殺につながることに)関与しない・完全に無条件に撤退する、そして、パレスチナ人のself-determination (セルフ・デタミネーション/自決権)を可能にするような関りを確保する義務を課した」
たとえ民需用に売っていたとしても、デュアル使用が可能な場合は、そもそもイスラエル政府やイスラエル軍、あるいはイスラエルにわたる軍事製品を作っている企業には売らない、といった対応が義務となります。
これを破ると、国際法で企業が訴えられることもありえます。
たとえ、国際法で義務となっていなくても、ヒューマニティー上、虐殺を行っている加害者に、虐殺を可能とする製品やサポートを渡さないことはとても大切です。
イスラエルは小さな国(日本の人口の約7パーセントの人口)で、アメリカや、多国籍企業の助けがなければ、虐殺を続けることは不可能です。
イギリスでは、イスラエルの軍需用企業の部品を作っていた企業の工場が、市民のデモンストレーションによって工場の一部が破壊され、結果的に軍需企業の下請けをやめ、バスの部品をつくる工場へとビジネスを変えたケースもあります。
「一般市民に職をつくりだすために、軍需品工場は欠かせない」という人たちもいますが、実際には、普通のひとびとを殺したり長年にわたる障害を残すような武器をつくるのではなく、同じ技術をつかって、ふつうの市民の日常に役立つものを作ることによって、利益や職をつくりだすことは十分に可能です。
イギリスでは、最近、アメリカからの強い要請により、欧州連合と同様に軍事費をかなり増やすことを決め、「軍需産業を大きくするのは、職を作り出し、職をえた人が税金を払い、国にとってとてもよいことだ」と政府は発表しましたが、福祉や健康・教育・住居といった本当にひとびとに必要なことへの経費は削減されたことに、多くの市民たちは反対しています。
イギリスはもともと軍需産業はある程度大きく、核兵器もかなり所有していて、軍事的にも政治的にもガザ虐殺に大きく関与しています。
近い過去にも、イラクやアフガニスタンへの国際法違反の侵略へと積極的に加担して、軍隊がイラクやアフガニスタンの市民に対して戦争犯罪を行ったことも記録されています。
兵器が増えても使う機会がなければ貯蔵庫にたまり、利益が出ないため、利益を出すためには兵器を使用する・売る必要があり、必要のない戦争を引き起こす・参加する可能性が高まることも懸念としてあがっています。
また、これらの兵器や戦争で使うために開発されたサーヴェイランス(監視)技術は、当然、自国の国民に対しても使われることになります。
アメリカが、始終さまざまな国に対して、爆撃したり、攻撃しているのは、軍需産業が大きいので、その軍需産業の儲けを助けるためだとの見方もあります。
もちろん、人種差別(爆撃するのは、非白人の地域ばかりー非白人は8割近くで地球上のマジョリティー)で、非白人を殺すことになんの躊躇もないことも影響しているでしょう。
フランチェスカさんのレポートにあがっていたものは、ほかにもデータ企業(パランティアなど)や、慈善事業、大学(マサチューセッツ工科大学では、ドローンが昆虫の群衆のようにコーディネートして、パレスチナ人市民を大量に殺すことを可能にする技術を提供)、ツーリズムなども挙がっていましたが、長くなるので、別の機会に。
これは軍事主義とも深く関連していますが、一見軍事とは関係のなさそうな、保険企業、金融企業、コンサルティング企業なども、イスラエルが虐殺を続けることに加担し、金儲けを行っています。
ガザだけでなく、イスラエルに占領されているウエスト・バンク、エルサレムでも、イスラエル軍・ユダヤ人違法占領者たちからのパレスチナ市民に対する暴力や殺人は続き、ガザでは、いまだに毎日100人ほどの市民(多くは子どもと女性)が殺され、ウエストバンクでも2023年10月から2025年7月の間に1000人以上のパレスチナ人が殺され、少なくとも9230人が負傷(手足の切断等も含む)、少なくとも6500人の行方不明者がいるとみられています。
また、パレスチナ人は罪状なしで監獄にいれられるケースもとても多く(長年続いているものの、スケールが拡大)、2025年1月時点で13000人以上のパレスチナ人がイスラエルによって監獄にいれられていると報告されていました。
ここには、子どもも多く含まれています。
医師や看護師などの医療従事者がイスラエル兵によって狙撃を受けて殺されたり、誘拐されて監獄にいれられ、拷問を受けた結果、殺されたケースがあることも報告されています。
昨日も、ガザで医師(Dr. Marwan Al-Sultanさん)が、住んでいたアパートへの爆撃で、家族全員殺されたことが報告されていました。
既に300人ほどのパレスチナ人医師が殺されていて、誘拐されて行方不明になっている医師たちもいます。
当然これらは戦争犯罪で、大きく報道されるべきですが、ヨーロッパやアメリカの主要メディアでは報道されません。
なぜかというと、帝国主義・植民地主義・移住者植民地主義・人種差別などの影響で、西側諸国(イギリスなどの元植民地宗主国のヨーロッパの国々、アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・イスラエルなどの移住者植民地主義の国々)では、ひとの命の価値にはハイラルキーがあり、白人はトップで完全な素晴らしい人間で命の価値はとても高く、有色人種(非白人)の命は無価値で、人間とは認識されていないからです。
もちろん、これは事実では全くなく、帝国主義・植民地主義で、原住民だった人たちを残虐に殺したり扱ったりすることを正当化するために使われたプロパガンダ・イデオロギーです。
ひとの命の価値には、ハイラルキーはなく、誰だろうと何をしていようと、地球上の誰もが人である限り、同じ命の価値をもっています。
西側メディアにも、人の命の価値にハイラルキーをつけること(白人>>>非白人)が色濃く反映されていて、イスラエルがレバノンの市民たちを爆撃で多く殺しても、西側メディアの報道は「テロ組織が集まっている地域で、イスラエルが見事に軍事ターゲットを爆撃するのに成功した」などです。
その地域は、さまざまな人々が集まって住んでいる地域で、テロ組織が密集している地域でないことは、ジャーナリストもよく知っていますが、新聞社の意向で、市民すら軍事ターゲットであるかのように扱われ、レバノン市民たちの命はなんの価値もないものとみなされているのは明らかです。
もちろん、これは戦争犯罪です。
でも、イスラエル兵士が戦場で殺された場合は、どんな素晴らしい人だったか、趣味や友人関係等が延々と報道され、彼ら・彼女らが戦争犯罪を犯していようと、それは問題にされません。
イスラエルはヨーロッパからのユダヤ人移民によってつくられた国で、その子孫が政治的・社会的に大きな力をもっているます。
ヨーロッパで生まれ育った、多重国籍をもっているユダヤ系ヨーロピアンが、イスラエルの軍隊で戦争犯罪を行っているケースも確認されていますが、彼ら・彼女らが、イスラエルで兵士として軍隊活動を行うためにイスラエルに行くことを禁じることは、まだ起こっていません。
イギリスやフランスなど、ヨーロッパのいくつかの国々では、既にイスラエルで戦争犯罪をおかした自国民(ブリティッシュとイスラエルの二重国籍でイギリス在住など)を国内裁判所に訴えることは起きていますが、本来なら、虐殺を行う側の軍隊に参加するためにイスラエルに渡航すること自体が禁止されているべきです。
また、たとえ軍隊に所属していたとしても、人道に反する命令に対しては、誰もが拒否する権利があり、そうするべきであり、また、「Conscience(コンシエンス/良心)」に基づく決定として、軍隊に入ることを拒否することもできます。
パレスチナ人虐殺については、つらくて、考えたくもない、自分や周りのひとに起こっているわけではないから関係ない、というひともいるとは思いますが、私がこうやって書いているのは、自分のヒューマニティーを守るためでもあります。
残虐なことが起こっているときに、普通にヒューマニティーをもっていれば、何かそれを止めるような行動を起こしたくなるのがごく普通の反応ですが、アメリカなども含め、ヨーロッパでは、パレスチナ人虐殺に反対することを表明しただけで、仕事から解雇されたり、文化人であれば講演会をすべてキャンセルされたり、ジャーナリストが逮捕されたりすることが実際に起きています。
また、主要メディアをみれば、虐殺の報道はないか、あったとしても、とても捻じ曲げられた内容で、パレスチナ人を非人間化するものにあふれています。
イスラエル政府が何度も停戦の合意を破っていて、パレスチナ抵抗組織のハマスはほとんどの場合、停戦条件を遵守しているにも関わらず、西側政府の首相たちは、「(パレスチナ抵抗組織の)ハマスが停戦を受け入れないから虐殺は続いていて、パレスチナ人の死の責任はハマスに100パーセントある」などという、実際に起こっていることとは反対のことを繰り返すばかりで、パラレル・ワールドに住んでいるような感覚をおぼえます。
西側政府は、「イスラエルには自衛権がある」を繰り返しますが、「パレスチナ人には自衛権がある」とは決していいません。
ここには、自分たちがイスラエルがパレスチナ人に対してしていることと同じようなことを、地球上の多くの原住民たちに対して歴史的に行ってきたことに対する、真しな反省が行われていないことも深く関係していると思います。
「動物のように野蛮で下級な原住民(非白人)」から、「優性な白人人種」が土地や資源を奪うのは当然の権利で、原住民たちは黙って奴隷であることを受け入れるか、去るか、受け入れず抵抗するような生意気さをみせるのであれば殺されるのが当たり前、というイデオロギーはいまだに生きています。
アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは、原住民の虐殺とエスニック・クレンジングを通して、侵略者である西ヨーロッパ出身の白人・キリスト教徒が、原住民たちから土地や資源を奪い、その地域のマジョリティーとしておきかわった地域です。
でも、その残虐な過去への反省はみられません。
西ヨーロッパ出身の白人・キリスト教徒による、原住民(非白人)に対する虐殺は、世界中で数多く行われてきたにも関わらず、語られることはほぼないのは、ユダヤ人に対する虐殺は、白人による、白人に対する初めての虐殺でヨーロッパ大陸で起こったから、という人種差別がはいっているとの見方もあります。
白人から非白人に対する虐殺を、虐殺だとみないひとびとも、残念ながら、かなり存在します。
国際法では、イスラエルのパレスチナ地域の占領は違法だと認められていて、占領されているひとびと(パレスチナ人)に対して、占領者(イスラエル)は自衛権をもちえないことも国際法で明確に定められています。
また、国際法では、占領者(イスラエル)に対して、占領を受けて抑圧されているひとびと(パレスチナ人)は、武力をつかった抵抗権も認められています。
イスラエルのあまりの残虐さに目をそむけたくなるものの、残虐さがエスカレートし続けているのは、それがNormalise(ノーマライズ/当然・普通のことになる)され続けているからです。
最初はイスラエルによる一つの病院の爆破でニュースになっても、多くの病院が繰り返し爆破されることが続くと、当たり前のようになり、報道されることすらありません。
イスラエルは、それを狙っています。
また、避難生活を余儀なくされている市民たちが暮らしているテントにとても大きな爆弾が何度も落とされて、多くの赤ちゃんや子供たちが殺されても、西側主要メディアではほぼ報道されません。
昨日は、ガザで150人もの市民(多くは子ども)が殺されましたが、西側主要メディアでは報道されないか、報道されても、「多くの人々が死んだというレポートがあった(→イスラエルの爆撃によって殺された、とは決して書かないし、レポートがあった、という記述で、この情報が偽情報である可能性が高いという印象を与えるような作為的な書き方)」です。
ジャーナリズムは、直接爆弾を落とさなくても、情報を隠したり、意図的に情報を曲げて伝えることで、虐殺に大きく加担しています。
私たちのヒューマニティーを守るためには、虐殺をノーマライズすることに抵抗し続けなくてはなりません。
最近、ブリティッシュ・パレスチナ人のひとが書いた抵抗に関する記事にとても共感したので、内容を絞って紹介します。
もとの記事は、ここから無料で読めます。
resistance (レジスタンス/抵抗)は、existential(イグジステンシャル/存在に関する)ポジションです。
これは、不正義をノーマライズすることや、抑圧に適応することを拒否することです。
多くの人々は、間違った二択に陥ります。
抵抗かsubmission(サブミッション/服従)か。
勝利が手の届かないことにみえるとき、服従は、「現実的」「道理の通った」道だと描写されがちですが、これは、服従はニュートラル(中立)ではなく、(抑圧者/占領者)の共犯となるという重要な事実を無視しています。
服従は、不正義、根深い恐怖を正当化し、戦場での敗北が起こるよりもずっと前に、敗北を内在化させます。
現代の歴史では、抵抗は、強い信念をもって続けられた時には、抑圧された人々の盾となりました。
アルジェリアでは、132年にわたる、残虐なフランスの植民地化に対して闘い続け、100万人のアルジェリア人の命が奪われましたが、1962年に独立を勝ち取りました。
ガザでも、生きる価値のある人生をつくることを目指して抵抗を続けています。
抵抗は、短期的な獲得に縛られるのではありません。
抵抗は、服従は自由である者には値しない、不正義が行われているときに沈黙しているのは中立ではなく、モラルが崩壊している、と確信していることから湧き出ます。
社会学的に、社会は、抑圧の重みによってだけ崩壊するわけではありません。
ひとびとが抵抗することは意味がないと信じ始めたとき、(抑圧されている人々の)集団・共有の魂に絶望がしみわたります。
そのとき(社会の内部からの崩壊)は、降伏(自分たちの正当なライツ・権利をあきらめること)が伝染病のようにひろまり、服従が強固な習慣となるときです。
(社会の)崩壊は、最終的な一撃が外側から加えられるよりずっと前に、内側から起こることになります。
抵抗は、生き残るための行動であり、継続の形をとります。
人間の尊厳の最後の破片を守ること。
抵抗は、ほかのすべての人々が沈黙するときに、話す声。
消去されることへの最後の防御、アイデンティティーと意志の最終的な主張。
私は抵抗します。
なぜなら、その代わりは、私自身のヒューマニティーをあきらめることー 不正義の言い訳をし、辱めを受け入れ、まだ息をしている間に自分自身の墓を掘ることだからです。
服従は、知恵・良識ではありません。
それは、自分自身、記憶への裏切りであり、未来に続くひとびとへの裏切りになります。
抵抗は、勝利するかどうかに基づいた選択ではありません。
抵抗は、敗北の時代においても自由の身でいることの選択です。
そして、たとえ私たちが戦闘で負けたとしても、私たちは、それよりももっと偉大な何かを回復します。
私たちは、私たち自身を回復します。
【参考】
Militarisation(ミリタライゼィション/軍事化)についての私の過去の記事
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20241205
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20241206
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20241210
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20241212
https://www.thegreencatalyst.com/blogs/post/20241216